夏風吹いて秋風の晴れ
是洞さんと教会で
部屋にステファン神父とあがりこむと、叔父は、ひと段落って顔で座り込んで、麦茶を飲んでいたし、是洞さんは、荷物をあげ終わって、どうしようかなぁー って顔で、叔母にすすめられただろう麦茶を、立ったままで、飲んでいた。
俺は、台所で忙しそうに叔母も動いていたし、かって知ったる親戚の家の冷蔵庫だったから、勝手に扉を開けて、麦茶をコップに注いでいた。叔母の「悪いわね、劉ちゃん」って声と、「わてにもでっせ」って言うステファンさんの声を聞きながらだった。
「叔母さん、荷物は全部おろしちゃったから、あとは2階のかたづけだけだけど・・見てきましょうか?」
「そうね、休憩してもらうように言ってくれる?お昼にしましょうよ、いろは寿司さんが、もう来るとおもうから・・」
いつも良く、叔母が頼んでいる寿司屋の名前が出ていた。予想どおり、出前がきちんと届くようだった。
「うん、じゃぁー 言ってくるね」
叔母に返事をして2階に上がろうとしながら、まだ、遠慮して立っていた是洞さんに「座ってください」って言うと、
「トラックを返してきます。それから、戻ってきますって、言ってもらっていいですか?」
って丁寧な口調で言われていた。
「星野さんにですよね?」
「ええ、すいません、たぶん1時間ほどで戻れると思うんですが・・」
「でも、お昼だし、それからでいいんじゃないですか?おいしいお寿司きますよ、食べてってください」
俺がご馳走するわけじゃなかったけど、叔母に代わってだった。
「でも、トラックじゃまですから、道路が狭いですし・・」
「あっ、それなら、このおっちゃんの家に入れちゃってください」
なんにもしてないのに、のんびりと、くつろいでいたステファン神父のほうを見ながら、ちょっとふざけた言い方で、是洞さんにだった。
「あぁー おきなはれ、どでかい家ですよって・・まぁ、その土地も元はといえば、ここの先祖さんから、もろた土地ですよって、遠慮いらへんで・・」
ステファンさんも、ふざけながらだった。
「大丈夫ですから、そこに移動して、お昼たべましょうよ、案内しますから・・」
「そうですか・・・」
「はぃ、ご飯食べてもらわないと困りますから、ねっ 叔父さん?」
こっちの話を聞いていた叔父にだった。
「すぐにお昼ですから、劉のいうとおりに車を移動してください、星野さんも、いらっしゃるんですから、ゆっくりしてってください」
叔父がきちんと、立ち上がって口にしていた。
「すいません、お言葉に甘えます」
頭を叔父に下げて是洞さんが答えていた。それを聞きながら、俺は、
「じゃぁー 行って来ます。2階は、悪いけどステファンさん見てきてくださいよ・・」
っておっちゃんにだった。
「わてかいな・・あんさん、人使い荒くなりましたなぁー 」
文句を俺にいいながらも、神父さんは、腰をあげて歩き出していた。
それを確認して、俺は是洞さんと外のトラックに向かっていた。
外に出て、トラックのドアに手をかけると、是洞さんは、
「隣の教会ってことですか?」
って聞いてきていた。
「はぃ、先に行ってますから、正面から入れてください」
「はぃ」
返事を聞いて、隣の教会に向かって走っていた。
教会の中に先に走って入ると、教会の駐車場は空いていたから、余裕でトラックはおさまりそうだった。もちろんいっぱいでも、どこかの庭に停めるつもりだった。
よく考えたら、教会の中に、はいるのも久々で、なんとわなくに見渡していると、すぐにトラックが中にゆっくりと入ってきていた。
あわてて、是洞さんに、
「こっちでーす」
って大きな声で案内をしていた。
車は、あっというまにスムーズに駐車場におさまっていた。
「ここで、大丈夫ですから・・」
エンジンを切っテ、トラックから降りてきていた是洞さんに、近付いて声をかけていた。
「おおきな、教会ですよねー こんな静かな住宅街に・・」
教会の建物と、その周りを見渡しながらだった。
「けっこう 古いらしいですよ。何回聞いても、あんまり興味ないんで、正確に何年前からあるかは、わからないですけど・・」
「そうですか・・さっき、神父さんが、土地がどうのって・・言ってましたけど・・」
「あぁー この教会の土地は、叔母の先祖が寄付したんですよ、代々の信者だし・・叔母の先祖が、ここに教会建てたようなもんみたいですよ・・」
「そうなんですかぁー ふーん、こんなに広い土地をねぇー」
「今は、ここも結構な値段がする住宅街ですけど、昔、昔は、畑とかが広がってたとこですから・・叔母の先祖が豪農みたいな庄屋みたいなものだったらしいですよ、先祖が・・」
何度か聞いて知っていたことだった。
「そうですか・・あのう信者さんなんですか?」
ちょっと遠慮がちに聞かれていた。
「どうかなぁー 一応小さい時に、ここで洗礼なんか受けてるから、そういえばそうなるし・・でも、何もしないから、俺・・日曜礼拝なんかは全然こないし」
どうにも、集団で賛美歌なんか、歌うのって苦手だったし、ステファンさんの長いお話なんて、悪いけどめんどうだった。
「ここって、結婚式とかも出来るんですか?」
「えっ、ここで やります?やめといたほうがいいですよ。あの、おっちゃん、ああ見えても、神父さんの顔になると、けっこううるさいですから・・」
是洞さんには、わからないだろうけど、いちおう、助言のつもりだった。
「そんな風にはみえませんでしたけど・・」
「あの人は、あの家では、のんきな声のでかい、変な関西弁のおっちゃんなんですけど、ここで、神父のときは、なんていうか、真面目っていうか、けっこうしっかりとした人なんですよ」
わかりづらいだろうなぁーって思いながらだった。
「そうですか・・」
やっぱり、わかりづらいって顔で返事をされていた。
「あっ、俺は、ちょっと教会の若い神父さんに、車のことを言ってくるんで、先にもどってください。すぐに俺ももどりますから・・」
「はぃ、鍵って持ってていいですか?置いてったほうがいいですか?」
「大丈夫ですよ、なんかあったら、誰か呼びにきますから・・」
「はぃ、じゃぁー 先にもどってますね」
歩き出した是洞さんを、確認して、教会の中に誰かを探しに行かなきゃだった。
聖堂の裏手にまわって、中に入ろうと歩きながら、隣の洋館を見上げると、2階の窓から直美がこっちを見て笑顔で手を振っていた。こっちは、あわてて手を上げてそれにこたえていた。
直美の口元が「 ご・は・ん だ・よー」って動いていた。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生