夏風吹いて秋風の晴れ
両手にいっぱい あれもこれも
結局、直美の大好きなカレーだったから、平気な顔で2杯も食べて、直美も少しだけおかわりをして、二人とも満腹って顔を見合っていた。
「片付けようか?」
「いいよ、そこで休んでて・・寝たりしないでね・・」
お皿を片付けて始めた直美に言われていた。
「あのさぁー 明日って、何時にいくとかは決めてないんだけどさぁー どうするー・・」
ゆっくり目の朝からお昼までの時間だろうなぁーって思っていた。
「弓子ちゃんって何時ごろ来るんだろ?聞いてないのぉー?」
台所から水の音と一緒に直美の声が返ってきていた。
「聞いてないんだよねー お昼ごろなのかなぁー」
「そうかもねぇー あっ、でも、今日、家具とか届いてるんはずなんだよね、ほら、一緒に買い物にいったじゃない、この前・・それ今日届いてるはず・・ベッドとか・・」
「そう言ってたね」
「叔母さん1人で大丈夫だったかなぁー」
「配送の人がきちんとやってくれるでしょ」
きちんと2階の部屋のスペースは空けてあったから、叔母は指示を出すだけだろうって思っていた。
「そうかぁー そうだよねー でも、あとで電話してみたらぁー 何時ごろがいいか聞いてみてよ」
「うん」
聞かなくてもいいかなぁーって少しだけ思っていたけど、一応は確認だけでも取っておくかって返事をしていた。
「あっ、それにさぁー 大場がさ、明日きっと来るとおもうよ・・」
「大場くんがぁー?」
「ちょっと、いろいろあって話したら、そりゃぁ 俺も行かなきゃって大場が言うし・・なんだか、教会に遊びにいったら、偶然そこに俺と直美が・・って感じで来るらしい・・」
「なにも、そんな子芝居うたなくてもいいのに・・」
「大場らしいじゃん・・宴会あるんでしょ?って言ってた」
「へんなのー よーし、おしまいっと」
直美が台所からこっちに手を拭きながら戻ってきていた。
「じゃぁー 今、電話するわ、叔母さんのとこ・・」
「うん、一応だいたいの時間聞いておこうよ」
「そうだな」
返事をして、立ち上がって電話を叔母の家にだった。
5回ほど呼び出し音が聞こえると、いつもの上品な叔母の声が聞こえていた。用件をいうと、はっきりとした時間は、叔母もわからないらしく、たぶん昼前ごろに弓子ちゃんと荷物を載せたトラックが到着じゃないかって事だった。それを聞いて、
「じゃー10時ごろでもいいかなぁー」って直美の顔を見ながら叔母に伝えると、
「何時でもいいわよ、休みなのにごめんなさいね、ゆっくりいらっしゃい」って言われていた。
電話を切ると直美が、
「10時ぐらいでいいよね、うん、自転車でいこうね、さっき天気予報みたけど、夕立もなさそうだし」
「うん、じゃぁー 朝はゆっくり起きて平気だね」
「朝は早く起きて、ジョギングです」
「休みも・・・」
ちょっと小さな声で聞いていた。
「そう、毎日だってば・・雨の日とかは休めますから、そうじゃない日は毎日だってば・・」
見透かされたように言われていた。
「しばらく雨なんか期待できないなぁー」
「台風くるかもよ・・沖縄のあたりに台風あったもん・・うまくすれば何日かあとにはね・・」
直美に笑われていた。
「何時に?」
おそるおそる聞いていた。
「しょうがないなぁー じゃぁー 明日はおまけで、ゆっくりでもいいよ。そうだなー 7時ごろに走ればいいかなぁー それなら平気でしょ?」
「それって、7時に走り出すんだよね?ってことは6時半には起きるってことだよね・・」
「大丈夫よ、起こしてあげるから・・うーん、ほっぺにチュってね」
本当にチュって起こされればうれしいけど、たぶん、現実は揺り起こされるだけだなぁーって思っていた。朝からチュなんかベッドの上でされたら、それどころじゃないやってのも思っていた。
「だから、きちんと起きてね。 チューってしてあげるからね」
考えていたら、笑顔の直美に繰り返し言われていた。
「ここは・・・」
「そこはねー そうだなぁー とりあえず1週間頑張ったら、ご褒美にそこにチュで起こしてあげるね」
直美の左手の人差し指が俺の唇に触れながらだった。それも、すごーい笑顔でだった。
2本の指が俺の唇にだった。
「はぃ」
俺も笑顔だった。
「よーし、着替え持ったら上にいこうかなぁー 上がったら、久しぶりにカフェラテ作ってよ・・暑いからって、全然このごろ劉のコーヒー飲んでないもん」
「うん、いいよぉー でも牛乳ってあったっけ?」
「さっき買ってきたから大丈夫」
「うん、じゃぁー おいしいのいれますよ」
「いいねぇー」
東京に出てきてすぐに始めたバイトが新宿の有名なコーヒー専門の喫茶店だったから、そこで習ったおかげで、コーヒーはきちんとおいしいのを落とすことが出来ていた。直美もそれを喜んで飲んでくれていた。
「じゃぁー 着替えとってきちゃうね」
「うん」
それから、直美は袋にいれた着替えと牛乳パックを持って、俺は、着替えたワイシャツと、残ったカレーの鍋を抱えてエレベーターにだった。人にあったら、なんて思われるかって格好だった。
「じゃぁー カフェラテがおいしく出来ますように」
両手がふさがっている直美が、両手がふさがっている俺に チュってだった。
1週間早起きして走らなくたって、いいんじゃん・・だった。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生