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夏風吹いて秋風の晴れ

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みんな外に


「あのさ、これって、鍵とかはどうなってるの・・・」
大場は機転の利くタイプだったから、俺に何回か小声で聞いてはきていたけれど、上手に話をまとめて、物件案内まで話を進めていた。ちょっと、驚いてみていたけれど、ものおじしない、人なつっこい大場だったから自然の成り行きだったのかもしれなかった。
「これ、道わかる?」
鍵をケースからとって、大場の手に渡していた。
「わかるよ、場所はなんとなくだけど・・」
「そうか・・あっ、これに名前とかだけ書いてもらってもいいかな、お客様に・・」
「あいよー」
名前と、職業と現在住んでいる住所の簡単な確認の紙を大場に差し出していた。
大場は、お客様の前に座りなおすと、きちんとした言葉使いで、紙の説明をして若い女性のお客様に書き込んでもらっていた。
見た感じはOLって感じの、きっと歳は22歳ぐらいかなぁーだった。
その間に大場に合図を送って、お客様には見えずらいスペースに連れていき、一応だったけど、ほんの少しの注意だけ与えることにした。
「えっと、ものすごーく堅くはしゃべらなくてもいいけど、お客さまなので、それなりに紳士でお願いね」
本当に小さな声でだった。
「まかせなさいよー きちんとご案内してきますから。でも、なんかドキドキするなぁー けっこうお前のとこの仕事っておもしろうそうだぁー まぁ 心配すんな」
「しっかりやれよ、頼むから」
「はぃはぃ」
そんなには心配はしていなかったけど、一応形だけでもって気持ちでだった。
大場がお客様に向かってカウンターに戻ると、書き終わった紙を「これでいいですか?」って言われて差し出されていた、大場をそれを持って、「はぃ」って言いながら俺の顔を見たから、手を出してそれを受け取っていた。歳は23歳で、名前は「らら」って書いてあった。ひらがなのそのものだった。「坂口 らら」って綺麗な字でだった。
「大場君、気をつけてお願いしますね。部屋はクリーニングしてありますから、見て頂いた現状でのお渡しになりますね、坂口さま」
椅子から立ち上がって、大場とお客さんに声をかけていた。
「はぃ、主任ではいってきます」
大場が笑顔で答えて、お客様より先にドアをきちんと開けて、外に向かっていた。それを追いかけてみていると、大場が笑顔で手を軽くあげて、こっちに合図をしていた。どうみても、サラリーマンには見えない開襟の半そでシャツとGパン姿の大場の後姿だった。
会社には俺1人になって、静かな時間が過ぎていた。麦茶を入れなおして、食べだすとけっこう止まらなくなるお土産のミミガーを口に放り込んでいた。
大場が案内に行った部屋は、ここから駅を背にして、たぶん10分ぐらい歩くはずだった。住宅街の奥まったところの静かなマンションで駅からは少し歩くけど、築年数も6年ぐらいだったから、綺麗な部屋だった。なんとか無事にきちんと案内してくれればって考えていた。

しばらくすると、川田さんがお客様をご案内して帰ってきて、気に入ったらしく、とりあえず仮契約になっていた。簡単な書類を渡すと、それに川田さんが少し書き込みを加えて、お客様に渡していた。もちろん、少しの内金を入れてもらって、領収書を出していた。あっけなく決まるときもあれば、案内しても案内してもダメってのはしょっちゅうだった。もちろん物件がよければ確立は高かったけど、それでも、ここ下北沢は人気の街だったから来店するお客様の数は多かったけど、それにきちんと比例してって成約数ではなかった。
書類をきちんと揃えて、お見送りをするともうすぐお昼って時間になっていた。
「川田さん、ごくろうさまです。このまま決まると思いますよ」
「はぃ、たぶん大丈夫だと思います。予算内でしたし、部屋に入ったときから気に入ってもらえたみたいでしたから」
「そう、良かった。あそこ、下がコンビにだから嫌がる人は、はっきりしちゃうから・・」
「そうですね、でも、逆に便利でいいって言ってくれたから」
「なら よかった」
俺はコンビにの上の部屋っていやだったけど、人によっては便利なんだろうなーってだった。
「大場さんでしたっけ・・帰ったんですか?」
「大場にさ、ふざけてカウンターに座ってろって言ったらお客さん来ちゃって、そのまま 今、部屋をご案内中」
「へー 大丈夫ですか・・・」
「たぶん、大丈夫だと思うよ。ひとあたりはいいし、あんなふうに見えても、頭はわるくないから・・」
「なんとなくは わかりますけど・・」
「機転がきくタイプだから大丈夫でしょ。決まるかどうかはわからないけどね・・」
どんなにきちんと大場がご案内できても、決まるかどうかは、部屋をお客様が気にいるかどうかが1番の要因だった。
「えっと、食事はどうしますか・・」
「悪いんだけど、お弁当勝ってきてもらって、ここで食べてもらってもいいかなー」
「いいですよー」
「残業代そのかわりに1時間つけるから、なにかあったら、短くなっちゃってもいいかなぁー」
「はい、じゃー 行ってきちゃいますね。なにか買うものありますか?」
「うーん、いいや、あとで俺もいくから」
「はぃ、じゃー お先にいただきます」
言い終わると川田さんは、外に向かっていた。
大場が帰ってきても、外には食事にはいけそうな状況ではなかったから、帰りそうな気配のない大場とここで、何を食べようって考えていた。出前って手もあるかってチラっと考えていた。
直美は、休憩時間になったかなーって思ったけど、お昼のいそがしそうな時間だから、まだ食べてないだろうなーって思いなおしていた。思いだしたら、直美が働いているケンタッキーのコールスローが急に食べたくなっていた。人にはあまり言わなかったけど、大好きな食べ物の一つだった。今日はまっすぐ家に帰って、直美とゆっくり、のんびりしたいって思っていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生