夏風吹いて秋風の晴れ
4人で話を
和室の座卓の上には、いろんな料理が並んでおいしそうだった。もちろんメインは先に運ばれてきていたお刺身の盛り合わせで、それからおひたしやら、みょうがの乗った豆腐の冷奴や、俺が好きなのを知ってて、谷中の葉しょうがに、ぬか漬けに、それから、それからって並んでいた。
こっち側に 俺と直美で、向こう側に星野さんと叔母が座っていた。
ご飯も、もちろん用意されていたようだったけど、叔母もビールを最初にだった。
4人揃って、おいしい料理を食べながらビールを飲んでいた。
「叔父さんに お昼呼び出されて食事したんだけど、叔母さんのところには電話あったの?」
たぶん、ないだろうっておもってたけど聞いていた。
「あるわけないでしょ、あの人が・・・」
「そうですね、まぁー そうですよねぇー」
ちょっと笑いながら俺が答えると、一緒に少し笑っていた直美が星野さんに、
「あのー 星野さんは施設の先生ってことになるんですか?」
って質問をしていた。俺もどういうふうなんだろうって思っていたことだった。
「いえ、先生ってわけではないですよ、仕事は別にあるんです。施設はわたしの家でもあるんで・・父がやってるんです。わたしはその娘です。もちろん夜に帰ってくれば手伝いっていうか・・」
「えっ、娘さんなんですね」
直美が聞き返していた。
「えぇ、もちろん父の手伝いもしたいんですが、わがまま言って、昼間は会社勤めしてるんですよ、今日は代休なんです」
「そうなんですかぁー お仕事ってなんなですか?」
直美がうなずきながら聞いていた。
「雑誌の編集してるんです」
「へぇー すごいですねぇー 格好いい・・」
「現実は格好なんか良くないんですよ」
星野さんが少し首を横に振りながら笑みを浮かべながらだった。
俺と直美がうなずくと、叔母が俺にビールを注ぎながら、
「でも、瞳さんは、ずーっと施設の子達の面倒もみてるのよ・・」
って、説明を俺と直美にだった。
「そうなんですかぁー 大変ですよねぇー きっと・・具体的にはよくわからないけど・・」
直美が、また、星野さんにだった。
「大変っていうか、気がついたら、ずーっと大家族なだけで・・今は、みんなわたしよりも小さい子だけになりましたけど、わたしが小さい時は、逆にわたしが大きなお姉さんとかに育てられたって感じでしたから・・」
「そうですか・・」
直美が声をだしていたけど、俺も「そうかぁー」って思っていた。
それから、俺の頭は「どういう生活なんだろう」ってぐるぐると考えていたけど、きっと直美もそんな事を思ってるに違いないだろうなぁーってのも一緒にだった。
「あのー」
少し、考え事をしていた直美と俺に星野さんが声をかけてきていた。
「弓子ちゃんは、やっぱり、純ちゃんの事を気にしてたと思うんですけど・・どんな風に言ってました?」
本題だった。
「うーん」
直美が言いながら、俺の顔を見ていた。「わたしが言う?」って顔でだった。眼が合って、瞬きすると、
「そんなに真剣には、話してないんですけど、純ちゃんと、今回の自分の引越しは別に考えてねってアドバイスしたんですけど・・一緒のことだけど、別にきちんと考えようねって・・・それに、弓子ちゃんが、今まで施設から新しい家にお引越しする子たちを見送る時に、幸せになってねって見送ってたって言ってから、それが本当の気持ちなら、今度は自分の順番なんだから、勇気を出してねって・・それとぉー うん、 住んでる家が違っても、純ちゃんと気持ちが別れちゃうって事じゃないよって事も言ったかな・・」
思い出しながら、きちんと直美が昨日の晩の話を説明していた。最後のほうはこっちを見ながら確認するようにだった。
「そうですか・・ありがとうございます。救われたと思います、彼女・・」
星野さんは小さく直美に頭を下げていた。
叔母も「ありがとうね、直美さん」って言いながら頭を下げていた。
「やだぁー そんなぁー」
直美が、手を顔の前であわてて横に振りながらだった。ビールでほんのり染まった顔が、また、少しほんのりを深めていた。
「えっと、それから、劉が、弓子ちゃんに、叔母さんと叔父さんに、きちんと気持ちを話しなさいって・・純ちゃんのことをって・・」
直美が俺の顔を見ながら説明を続けていた。かくれて、右手が俺の畳の上の左手に触れながらだった。
「劉ちゃんも、ありがとうね、ほんとにありがとうね・・」
叔母が、また頭を下げていた。なんだか、うっすらって瞳でだった。
「やだなぁー なーんもしてないですから・・それって、話したのは少しで、あとは、関係ない話をずーっとしてただけだから・・」
あわてて、説明しながら、恥ずかしかったからビールを口にしてごまかしていた。
「たぶん、もう、きっと大丈夫だと思いますよ。弓子ちゃんは、頭もいいし、気持ちのあるいい子ですから・・・だから、それが邪魔して、逆にずーっと今までも、いろんな話があったのに、施設を出ようとしなかったぐらいですから・・・彼女に、ここで、中学までいて、それから働きますから、それまではここに居てもいいですか?って何度か言われましたし・・高校まで行っていいのよ、ここからって通っていいのよって言っても、首を振らないような子ですから・・」
ゆっくりと、星野さんが俺たちに話していた。
弓子ちゃんには、他の普通の中学生がまったく考えなくてもいい事までも考えなきゃいけない事が、いろいろあったんだろうなって思っていた。
いい子が、ここにやってくるんだなってのも一緒にだった。
「叔母さん、いい子が 娘さんでいいなぁー かわいいし、弓子ちゃん・・楽しみですね」
直美が、静かになっていた空気をよんで、きちんと声をだした。
「そうだねぇー いいねぇー よかったね、叔母さん、どうするよ?彼氏とか連れて着ちゃったら?」
俺も、遅ればせながら、それに続いていた。
叔母の頬が少し緩んだような気がしていた。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生