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夏風吹いて秋風の晴れ

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ステーキ食べて


「カウボーイ」に着くと、時間は早かったのに、人気の店だったから店の中はお客でほとんど埋まっていた。
弓子ちゃんは店員のウエスタンカーボーイ姿に少し笑っていた。
「えっとね、バイト代が入ったばっかりだから、ステーキにしよう。俺がおごってあげるから・・」
バイト代は、夏休みで学校が無かったから、ほとんど7月末からは1週間に1度だけ休みってスタイルで働いていたからけっこうな金額になっていた。
「よーし、じゃぁ これ食べちゃおう」
直美がメニューの写真を指差したところは「ワンポンド・ステーキ」だった。それは、俺も大好きな名前の通りのでっかいステーキだった。
「食べられるか?いってみるか?弓子ちゃんも?」
少し心配で聞くと、弓子ちゃんは、
「はぃ、大きいんですよね、これって・・」
て答えて、直美が、
「私も食べられるから、大丈夫よ、残しても、きっと劉が食べちゃうから、これにしようね」
って続いていた。
決まりって感じで、ワンポンド・ステーキを3人分注文だった。
たぶんテーブルに並ぶとすごい事になりそうな気がしていた。
「さてと、弓子ちゃん、何か話したいことでもあるのかな?そうなんでしょ?」
直美が笑顔を見せながら弓子ちゃんにだった。
確かに、そうでなきゃ、直美に連絡なんかしてくるはずが無かった。笑顔を見せていたけど、俺も顔を合わせたときから、心配していたことだった。
「あのう・・」
言いづらそうに弓子ちゃんの口が動き出していた。
「なぁーに、こんな場所で、なんだけど、何でも言って」
確かに相談って雰囲気の話をする場所ではなかった。
「えっと、劉さんは、叔母さんの甥っ子なんでよね?」
「叔母さんのって言うより、叔父さんのね・・まぁー どっちでいいのかな・・」
直美が俺に代わって答えていた。俺は、直美のほうが弓子ちゃんは話しやすいだろうと思って黙って聞く事にしていた。
「そうですか・・だと、あのー 私が話すと叔母さんの所に全部話しって行っちゃいますよね・・」
「それって、聞いた事を、劉が叔母さんにしゃべっちゃうってこと?」
俺は居ないほうがどうやら彼女にとっては良かったようだった。
「しゃべっちゃうって言うか・・伝わるっていうか・・」
「言わないで欲しいなら、劉は言わないと思うよ、ね?」
直美に顔を見られたから、弓子ちゃんにもわかるように大きく首をうなずいていた。
「ね、大丈夫でしょ、約束したから平気だよ、なに言ってもいいよ、弓子ちゃん」
「はぃ、あのう・・どうしたらいいか、わかんなくなっちゃって・・」
目を伏せながらだった。
「それって、お引越しってことだよね・・」
直美も俺もすぐにわかっていた。たぶん直美も弓子ちゃんから電話が会った時にわかっていたはずだった。俺も顔を見たときに思っていた。
そういう風にならなきゃいいねって話していたことで、少し心配して、2人で、それは考えないようにしようって言っていたことだった。
「はぃ」
弓子ちゃんの声が小さくなっていた。
「そっか、そうだよね、いろいろ悩んじゃうよね、よーし、じゃぁー 今夜はゆっくり、話そうか・・家でね・・泊まってってよ」
直美がけっこう、大きな声で元気よく弓子ちゃんに話しかけていた。
「えっ」
顔をあげてビックリって声を弓子ちゃんが出していた。
俺も内心、驚いたけど、いい事かもって思えていた。泊まれるならじっくり話したほうがいいに決まっていた。俺は、直美に小さくうなずいた顔を見せていた。
「じゃぁー どうしようかなぁー 後で電話すればいいかな?劉がやってくれるから平気だよ。けっこう、そういうところはしっかり出来るからね、この人」
この人呼ばわりで、言われたから、俺も口を出す事にした。
「うん、やっておくから、そうしよう・・せっかく おいしいステーキ食べるんだから、まずは、集中してたべよう、じゃないと、食べきれないからね」
「そうそう、弓子ちゃん、頑張って食べないとダメだよ、わかった?」
「はぃ」
中学生の顔が少し明るくなって、すぐにまた話を始めだした。
「あのうー 聞いてもいいですか?あれですか?」
弓子ちゃんの目線は、斜め前のテーブルのステーキにだった。
それは、体の大きな大学生風の男の子の前に置かれたワンポンド・ステーキだった。
「そう、平気よぉー 見かけより柔らかいのよ・・」
直美がお客を気にして小声で笑顔を見せて答えていた。
でも俺は、初めて見ればビックリするだろうって考えっていた。それに店内は、食うぞーって感じの人達ばかりだったから、よく考えたら、弓子ちゃんみたいな中学生は他には誰もいなかった。
「おまたせしましたぁー」
元気な声で、カウボーイ姿の店員2人が俺たちの分をいっぺんにテーブルの上に運んできていた。
おいしそうな鉄板の音をさせながらだった。
「うわぁ・・」
声にならないようなため息みたいな声を弓子ちゃんが出して、俺と直美は きたぁー って顔をしていた。何回見ても やっぱり、きたぁー って感じが当たっていた。
「さぁー 食べようぉー」
本当に元気な直美の声と笑顔だった。俺も笑顔だった。
もちろんフォークをステーキに刺して、口にほうりこんだら、弓子ちゃんも遅れたけれど満面の笑顔だった。


作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生