夏風吹いて秋風の晴れ
見送られて
思ったよりにぎやかで、叔父さんも叔母さんもうれしそうでなによりだった。
弓子ちゃんも、直美と話をしながら笑顔を見せていたし、緊張した顔をしていた小学生の純ちゃんもすぐに笑顔で夕飯を口にしていた。打ち解けだすと、さすがにここまで1人で来るくらいだったからしっかりとした子で直美に話しかけられてもきちんとと受け答えをしていた。話を聞くと、純ちゃんは小学校の2年生だった。
弓子ちゃんも純ちゃんもお泊りになったから、叔父はステファンさんとお酒を飲んで大声で話していたし、俺も勧められて、ビールを飲んでいた。もちろん自分では買えない高い肉は柔らかくておいしかった。
食事をしながら 直美の横に座っていた弓子ちゃんと純ちゃんはまるで姉妹のようでほほえましかった。弓子ちゃんは、食事をしながらも純ちゃんの面倒を見ていた。
「さてと、わて、そろそろ帰りますわ、眠くなってしもたわ・・・」
冷たい冷酒の入ったコップを飲み干しながら、ステファンさんがみんなにって感じで口を開いていた。
「まだ、いいじゃないですか」
叔父がステファンさんのコップに酒をそそごうとしながらだった。
「いや、今日は帰りますわ、小さい子も眠そうやし、わていたら声大きいですよって寝れませんわ・・」
言ってるわりには充分大きな声だった。
「そうですかぁー」
叔父が残念そうな声をだしていた。
「さぁ、あんたらも、一緒にどないだ・・」
ステファンさんが俺と直美に赤い顔を向けて聞いていた。時間はまだ8時半にもなってはいなかった。
「はぃ、そうしましょうか」
直美が俺より先に返事をしていた。俺の顔も見ながらだった。
「叔母さん、ご馳走様でした。今夜はこの辺で・・一緒に帰ります」
直美が続いて話をして、俺はそれにうなずいていた。
「なんだ、まだいいじゃないか・・大学だって休みなんだろ・・」
叔父が赤い顔で言っていた。
「いや、直美も明日バイトだし・・今日はこの辺で・・また来ますから」
「そうかぁー」
叔父は少し残念そうな顔だった。
「では、帰ります」
立って、さっさと歩き出していたステファンさんの後を追いかけていた。巨漢のくせに動きはいつもすばやかった。
直美は丁寧に叔母に挨拶をしているようだった。
それから、弓子ちゃんと純ちゃんにも「おやすみ」を言っている声が聞こえていた。
玄関に出て靴を3人で履いていると、結局、全員が玄関に見送りに出てきていた。眠そうな純ちゃんもだった。この家でこんなにおお人数に見送られるのは初めてだった。
「忘れてた・・・弓子ちゃん、これね」
「はぃ」
直美が小さな紙になにか字を急いで書いて、弓子ちゃんに渡していた。
「ほな、また楽しい食事しましょうな、お嬢ちゃんたち、よろしゅうにな・・」
ステファンさんが強引に2人の手をとって握手をしていた。
「じゃぁ、また、来ます」
頭を下げて外に出ていた。最後に直美が外に出てきていた。外はまだまだ暑かった。
教会の前で、ステファンさんが立ち止まると
「面倒みてあげてくださいね 直美ちゃん」
標準語で話しかけていた。久しぶりに聞く標準語だった。
「はぃ、でも、きっと大丈夫だと思いますよ・・・なにかあったら電話してって、さっき紙に電話番号書いてあげたけど・・それより、純ちゃんがかわいそうですね・・・」
「なかなか弓子ちゃんが この家に来る事がまとまらんかったのも、あの子がいてたからなんですわ・・姉妹のように仲よろしいらしいわ・・まぁ、見りゃすぐわかるわな・・」
「そうですね・・まだ小さいし・・」
「さて、じゃぁ そないなことよって、なんかあったら頼むわ。あんさんもな・・」
俺の肩をたたきながらだった。
「はぃ」
短く返事をしてステファンさんに頭を下げて、その後ろ姿を直美と見送っていた。
「世田谷線で帰ろうか」
「歩いてでもいいよ、鰻やさんと洋食屋さんもチェックしたいし・・」
「じゃぁ、歩こうか」
酔いも少しは覚ましたかったら歩きだしていた。ちょっと暑いのは我慢だった。
手も握りたかったから、ちょうどよかった。
「変なこと聞いてもいい?一緒に、叔母さんの家になんて無理なんでしょ・・純ちゃんもって・・」
「わかんないよ、その辺の話って全然しらないんだよね・・・なんとなく、養女を探してるのは知ってたけど・・詳しい話はしらないんだよね」
本当の事だった。
「ふーん、そうかぁー 2人一緒って無理だよねぇ・・・」
「それは、俺にはわかんないなぁー でも、いきなり2人も娘できたら大変なんじゃないのかぁー」
素直な気持ちだった。
「でも、逆に楽かもしれないよ、仲いいんだし、あの2人・・・」
「そうかねぇ」
「そうだと思うんだけどなぁ・・」
「でも、俺が叔父さんたちに言えることじゃないだろ」
「そんなことないでしょ、決めるのはもちろん叔父さんたちだろうけど・・」
「2人とも、ってかぁ・・・」
どうなんだろうって、直美がこっちに向けた顔を見ながら考えていた。
確かに純ちゃんには、弓子ちゃんが叔父の家に来るのはかわいそうなことだった。それはたしかに本当に思っていた。でも、それを叔母や叔父に言う事は、2人を苦しめる事になりそうなことだった。2人にとってそれは俺よりもずっと真剣に考えている事のはずに決まっていた。
「うん、それもきっと いいことかもって・・・もちろんいろいろ大変なんだろうけど・・叔父さんも叔母さんも考えてる事なんだろうし・・」
俺に話しかけながら、直美の手は、劉が考えてる事は私にもわかるよって握りしめていた。
俺はそれに首を縦に動かしていた。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生