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散花妖想

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「どうかしら、似合う?」
丁度帯を締め終えた所で声をかけられた。少し照れくさそうなそれに、加苅は顔を上げる。その拍子に、部屋の隅にある鏡に映る彼女の姿が目に入った。
肩口までの艶やかな黒髪、日に焼けたことなど無いかのような白い肌、脆いガラス細工の様な華奢な体、そしてそれを覆い隠すような純白の着物。ほんの少し頬を染めながらこちらを見ている声の主の表情。目線をやると色々な物が目に入る。その全てが美しいと思った。見慣れているはずの狭い和室が見知らぬ場所に感じられる。普段からここで客の採寸を行っているのに、知り合いがいる、というだけでどうしてこんなによそよそしく思ってしまうのだろう。
声の主である幼馴染は、上目遣いで加苅に「どうかしら」と問いかけた。いくら昔から知っている仲とはいえ、さすがに花嫁衣装である打掛姿を見られるのは照れるのだろう。加苅の方は仕事上見慣れている物なので特に何も感じないのだが。
彼女の襟元を直してやりながら、率直な感想を述べてやる。
「あぁ、似合うよ。今から式を挙げたって問題ないくらいだ」
「いやだ、加苅さんったら」
幼馴染はその言葉を冗談と受け取ったらしく、楽しそうに笑った。加苅としては半分本気だったのだがまぁ良い。
「それにしても椿の着物を仕立てることになるとは思ってなかった。それも打掛なんて」
加苅は着物の仕立て職人だ。とはいえまだ若く経験も浅い。小さな頃から家族のように接してきた幼馴染の花嫁衣装を仕立てる日が来るなんて誰が想像しただろう。
「でも、花嫁衣装は加苅さんに仕立ててもらうって決めていたもの」
椿はそう言って、私の判断は間違ってなかったと笑った。
「そう言ってくれると僕としても嬉しいけどね」
その先の本心は言わなかった。言えなかったと言うべきではあるが。誤魔化すように言葉を続ける。
「朝貝に見せなくて良いのかい?」
加苅の問いに、椿は拗ねたように頬を膨らませた。
「だって、一雅さんは式の日になれば嫌でもこの恰好を見るのよ? 今見せる必要なんてないじゃない」
作品名:散花妖想 作家名:三鳥