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上田トモヨシ
上田トモヨシ
novelistID. 18525
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短文(食)

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よく晴れた日曜の午後。
空は雲一つないクリアブルーで、洗濯日和というならまさに今日だと言わんばかりの空模様だ。点数をつけるとしたら、ほぼ満点に近い。
さて、そんな素敵な日曜の午後、自宅賃貸マンションのキッチンで一人立ち尽くす俺が何をしようとしているかと言えば、もちろん料理である。
キッチンでそれ以外の行為を行う確率は、特殊な趣味嗜好の方々を除いて限りなく低いだろう。
しかし俺は今、現在進行形で大きな悩みを抱えている。
朝の九時からこの場所に立ちつくし、トイレに行くこと一回、煙草を二本と半分浪費して、未だ踏ん切りがつかないでいるのだ。
自宅のキッチンは入居当初から湯を沸かす以外に使用していないお蔭で、綺麗なものだ。
賃貸マンションにありがちな狭苦しいシンクの上に並ぶのは、昨夜勢いだけで買い付けてきた名前も用途も分からない食材たち。
あとはフライパンや鍋、包丁にまな板といった、一般的な調理器具が一揃い。この俺ですら名称と用途を把握している超メジャー級のグッズだ。
はっきり言おう、俺は生まれてから今日に至るまでの二十三年四か月と二週間、一度たりとも料理というものをしたことがない。
今でこそ実家を出て賃貸マンションで一人暮らし紛いのことをしてはいるが、その実、実家からは地下鉄で一駅しか離れていない。
一人息子で箱入り息子の俺を実家という箱庭から放逐することに散々反対した両親をやっとの思いで説き伏せて、ようやく手に入れた我が城に入城したのがおよそ半年前。
それからというもの、母親が三日と空けず我が城へ侵攻し、掃除洗濯作り置き飯などなど、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。
それじゃあイカンだろうと、一念発起したのが昨夜帰宅時の話だ。
その時の俺は多分に酒が入り、足元も手元も、果ては視線も聴覚も覚束ないほどいい感じに出来上がっていた。
隣を誰かが歩いていたことまでは覚えているが、それが誰だったのかは思い出せない。
けれどそいつに言われた一言だけは、やけにはっきりと覚えている。

「お前それ、全然一人暮らしじゃねぇじゃん」

掃除もしねえ、料理もできねえ、しまいにゃ全部母親任せって、実家暮らしと変わんねえだろ。
一言たりとも反論できなかった。そこからは売り言葉に買い言葉だ。
俺だってやればできるんだよできる子なんだよ。そうかよじゃあやってみろよ無理だろうけどな。馬鹿言うなできるっつってんだろ。そうかじゃあ明日メシ食いに行ってやるよ。上等だこの野郎。
昨日のそんなやり取りを思い出して、軽い頭痛に頭を抱えながら煙草を灰皿に押しつける。
さて、まずは手始めに、玉ねぎとかいう球根のようなやつの皮でも剥こうか。さすがの俺でも、野菜は洗って皮を剥く、くらいの一般的知識はある。
しかし、これは一体どこまで剥いたものか。どこまで剥いても皮なんだが。








作品名:短文(食) 作家名:上田トモヨシ