小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

行方知れずの恋

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


  二回目の席替えで、二つ上の女の先輩と永井、三次が同じテーブルにつくことになった。ここまで近づくと、永井もあからさまに自分の方を見ない。近くに居る方が大分マシになるのだ。とりあえず彼の視線攻撃が止んで安堵した。
 飲み会は中盤に入る。大分酒も回ってきて、話題が下世話な方向へと進んでいく。
「永井は、彼女いるんだっけ?」
 先輩の問いに永井は箸を止める。
「いいえ」
「なんだ、つまらん。好きな人はいないの?」
「まあ。……好きになるほど、知り合えないので」
「消極的だからなあ、君は。彼女欲しいなーとか思わないわけ」
「必要性をあまり感じなくて」
 そりゃそうだ。永井は彼女じゃなくて彼氏が欲しいんだよ。
 なんて言葉はビールと共に流し込む。
 先輩は頬を膨らませて、永井の消極的さを嘆いていた。「華々しい大学生活を楽しもうと思わないの?」と呆れたように説教めいたことを口にするが、そもそも大学に何を求めてやってくるのかは個人の自由なのでそこまで干渉されることはないように思う。かといって自分は楽しい大学生活に否定的な意見を持つわけでもないので、永井がギブアップと言わんばかりに助けを求めてくるまでは話を傍観していた。
「三次くんは彼女とはどうなったの?」
 いまいちピンとくる反応を返せない永井に飽きたのか、会話の矛先が三次へと移った。
 三次は入学して半年も経たないうちに彼女ができた。相手の方から告白され、それなりに可愛いと思っていたので、すぐに了承した。どちらかというと真面目で清楚な女の子で最初の方は上手く付き合っていたのだが。
「二か月前くらいに、別れました」
 彼女のことは好きだった。今でも好きか嫌いかと言われれば好きと答えるだろう。けれど、物足りなさが胸の奥に渦巻いていた。いち早く三次の感情に気がついた彼女は、自分から別れを言い渡した。私のことを本気で考えてくれない人は嫌だと。
 彼女のことを思うといつも申し訳なくなる。心の底から好くことができなかったのはどうしてだろうと別れたという事実を口にするたびに心を痛めていた。
「三次くんて、恋愛に重点置かないタイプなの?」
「そういうわけじゃないですよ」
 曖昧に苦く笑い返した。三次の話に率先して口を挟むのは、やはり恋愛談議が好きな先輩の方だった。永井は関心がなさそうに揚げ物をつついている。手持無沙汰なのだろう、先ほど運ばれてきたばかりの烏龍茶はすでに半分以下になっていた。
 面白くない。横目で見ながら三次はそう思う。
 自惚れでなく、永井は自分のことが好きなはずだ。そういう目で、見つめてくる。それなのにその無関心な反応は一体何なのだ。もう少し、動揺して見せればまだ可愛げがあるというのに。
 心の中でそう零しながらぐいとビールを呷った。
 


 終盤頃になると三次は前後不覚になるほど酔っぱらっていた。二次会どころの話ではない。そうなると唯一の同級生かつ、一次会で率先して帰るつもりだった永井に介抱の役目が回されるのが常だった。
 気がつけば三次は自分のアパートの前に居た。ひやっとした冷気が肌に触れ、徐々に意識がはっきりとしてくる。ごそごそと永井が鞄に手を突っ込み、三次の部屋のドアを開ける。ずるずると引きずられるようにして中へ運ばれた。
「三次、着いたよ」
 ベッドへ投げ飛ばされる。永井はぜいぜいと荒い息を繰り返していた。身長差が大分あるので三次をここまで連れてくるのには相当の体力が必要だっただろう。恨みがましい目で睨まれた。いつものあの物欲しそうな顔ではない。少しだけ怒りを表現した目だった。
「毎回連れて帰るの俺なんだから、少しは自重してよね」
「ん、ごめーん」
 ふわふわした意識の中、軽い返事を返す。永井は「全く反省の色が見えない」とため息を吐いて、ベッドに横たわる三次の肩まで律儀に布団をかけた。
「鍵はポストの中に入れておく。気持ち悪くなったら水飲むんだよ」
 そのまま出て行こうとする永井の腕を寸前のところで掴んだ。
 咄嗟の行動に自分でもわけがわからない。けれど、心に浮かんだままの言葉を口にした。
「一緒に寝てよ」
 永井の動きが固まる。振りかえるまで随分と長い時間を有していた気がした。堅い表情で彼は暗闇でもわかるくらい眉をひそめていた。
「嫌だよ」
 冗談を言ってくれるなと言いたげだ。どうしてそこで嫌悪感を丸出しにされなければいけないのか三次には解らなかった。
 好きなんだろ? お前、俺のこと好きなんだろう? どうして拒むのだ?
 もちろん、それを口にすることはなかった。振りほどこうとするのを必死に食い止める。
「いいから、こっち来い」
 強引に腕を引いた。力は圧倒的に三次の方が強い。倒れ落ちるようにして、永井の身体が自分の身体に覆いかぶさった。
 どうして泣きそうな顔をしているのか。どうして、それほどまでに拒絶するのか。彼にとって、これは願望に等しいほどの出来ごとではないのだろうか。もがき続ける永井の細い腰をぐいと掴み、押さえつける。
 永井は、ほどなくして抵抗を諦めた。酔っぱらいのすることだと割り切ったのかもしれない。
「どうしたの。俺は彼女さんじゃないよ」
 呆れたような声が聞こえる。三次はその言葉を聞き流した。だから先ほど彼女とは別れたといったのに記憶力の悪い奴だとか態と言ってるのではあるまいなと内心で愚痴をこぼす。
 しかし、自然と密着した身体に思考は次第に奪われていく。胸の鼓動が子守唄のように伝わる。心地よい。暖かい人の体温に瞼が耐えきれずゆるゆるとくっついていった。気がつけば三次は意識を手放していた。
 

2011/11/21
作品名:行方知れずの恋 作家名:ノア