行方知れずの恋
行方知れずの恋
大学の写真同好会の新観。それほど人数が多くない、アットホームな同好会なのでそれほど雰囲気は悪くなかった。今年の新入生は去年より二人増えて四人だったが、この分だとすぐになじめるだろう。緊張している彼らを揉みほぐすように三次は当たり障りのない話題を提供した。
「どこ出身?」
「写真は前から撮ったりしてる?」
「どうしてうちの大学選んだの?」
最初のうちは新入生の方も自分たちの方も受け答えに必死だった。しばらくしてくると、その場の雰囲気に慣れそれぞれが思い思い時間を潰し始める。三次も隣に座った先輩と適当にこの店はこれが美味いだとか、自分が入った当初の頃はああだったとか思い出話に花が咲いていた。
そんな中、三次をちらと見つめる二つの目があった。
永井相馬。消極的で、大人数でいるとどこに居るか解らなくなってしまいがちの、目立たないタイプの同級生。彼の視線はことあるごとにちらりと自分の方へ寄ってくる。
それに気がついた三次は深くため息をついた。
また、だ。またあの目で見られている。
焦げ付くほど熱く、それでいて一枚壁を挟んだような冷静な視線。彼はその目から自分の何を感じ取とろうとしているのだろうか。じりじりと見つめられて、歯がゆい気持ちになる。
三次は彼の熱っぽい視線の真意に以前から気がついていた。永井は自分が好きなのだ。それも性的な意味で。どうしてそこまで断定できるのかといえば、彼の目がそう告げているからというしかなかった。
永井は上手いこと自分の気持ちを言葉で表現することができない。それは恐らく子どものころから。人間、幼いころに形成された性格は中々直りはしない。だからだろうか、彼の顔から発せられる感情というものは他人よりも重かった。特に、視線だ。彼の目からこぼれ出る感情はとても素直だった。
三次が欲しい。触れ合いたい。愛されたい。
永井が三次を見つめる目にはいつの間にかそのような欲求が込められていた。もちろん、いつもそれがただ漏れかといえばそういうわけではなく、たまに、ふとした瞬間に彼の目にはそのような感情が込められるのであった。
その欲求は重く三次の胸に響く。
何気なさを装ってふいと永井の顔が視界に入らないように顔をそむけた。耐えることに慣れたつもりではあるが、苦しいことには変わりない。言えばいいのに。言ってくれればいいのに。そうしたら、何もかもスッキリするのに。
小さく息を吐く。かれこれ一年はこのような生活を続けている。いい加減にしてほしいと思わずにはいられなかった。
永井と出会ったのは大学一年の春だった。写真同好会と掠れた文字で書かれた部室前で、入室を躊躇していたところに出くわしたのだ。鈍く光るドアノブに手を当て、眉間にしわを寄せて躊躇っている。声をかけたのは三次からだった。
「入部希望なの?」
「俺もそうなんだけど」と続けようとしたところで、さっと永井は顔を青く染めてその場から逃げだした。陸上部に匹敵するほどのダッシュ力で、三次が「待てよ」と声をかける暇もなかった。後に聞いたところによると、同好会の先輩だと思ったらしく、入部を決めかねていたところに声をかけられたらそのまま流されると判断したから咄嗟にあのような奇怪な行動に出たそうだ。
昔から人相が悪いと散々周りから言われていたので、ビビらせてしまったのではないかとその時三次は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。それゆえに、数週間後の新観で永井と再び出会い、真相を知った時は心底ほっとした。
「俺、昔から人見知りだから。三次のせいじゃないよ」
申し訳なさそうにそう言われる。永井は自分から人見知りだということもあって、中々うまいこと会話が成立しなかったが、三次の方が社交性もありそういう相手を苦としなかったので二人は自然と仲良くなった。
写真同好会の新入生が、永井と三次の二人だけだったということも一因だ。同級生が二人しかいないのだから仲良くしようという結論に落ち着いた。
大学の写真同好会の新観。それほど人数が多くない、アットホームな同好会なのでそれほど雰囲気は悪くなかった。今年の新入生は去年より二人増えて四人だったが、この分だとすぐになじめるだろう。緊張している彼らを揉みほぐすように三次は当たり障りのない話題を提供した。
「どこ出身?」
「写真は前から撮ったりしてる?」
「どうしてうちの大学選んだの?」
最初のうちは新入生の方も自分たちの方も受け答えに必死だった。しばらくしてくると、その場の雰囲気に慣れそれぞれが思い思い時間を潰し始める。三次も隣に座った先輩と適当にこの店はこれが美味いだとか、自分が入った当初の頃はああだったとか思い出話に花が咲いていた。
そんな中、三次をちらと見つめる二つの目があった。
永井相馬。消極的で、大人数でいるとどこに居るか解らなくなってしまいがちの、目立たないタイプの同級生。彼の視線はことあるごとにちらりと自分の方へ寄ってくる。
それに気がついた三次は深くため息をついた。
また、だ。またあの目で見られている。
焦げ付くほど熱く、それでいて一枚壁を挟んだような冷静な視線。彼はその目から自分の何を感じ取とろうとしているのだろうか。じりじりと見つめられて、歯がゆい気持ちになる。
三次は彼の熱っぽい視線の真意に以前から気がついていた。永井は自分が好きなのだ。それも性的な意味で。どうしてそこまで断定できるのかといえば、彼の目がそう告げているからというしかなかった。
永井は上手いこと自分の気持ちを言葉で表現することができない。それは恐らく子どものころから。人間、幼いころに形成された性格は中々直りはしない。だからだろうか、彼の顔から発せられる感情というものは他人よりも重かった。特に、視線だ。彼の目からこぼれ出る感情はとても素直だった。
三次が欲しい。触れ合いたい。愛されたい。
永井が三次を見つめる目にはいつの間にかそのような欲求が込められていた。もちろん、いつもそれがただ漏れかといえばそういうわけではなく、たまに、ふとした瞬間に彼の目にはそのような感情が込められるのであった。
その欲求は重く三次の胸に響く。
何気なさを装ってふいと永井の顔が視界に入らないように顔をそむけた。耐えることに慣れたつもりではあるが、苦しいことには変わりない。言えばいいのに。言ってくれればいいのに。そうしたら、何もかもスッキリするのに。
小さく息を吐く。かれこれ一年はこのような生活を続けている。いい加減にしてほしいと思わずにはいられなかった。
永井と出会ったのは大学一年の春だった。写真同好会と掠れた文字で書かれた部室前で、入室を躊躇していたところに出くわしたのだ。鈍く光るドアノブに手を当て、眉間にしわを寄せて躊躇っている。声をかけたのは三次からだった。
「入部希望なの?」
「俺もそうなんだけど」と続けようとしたところで、さっと永井は顔を青く染めてその場から逃げだした。陸上部に匹敵するほどのダッシュ力で、三次が「待てよ」と声をかける暇もなかった。後に聞いたところによると、同好会の先輩だと思ったらしく、入部を決めかねていたところに声をかけられたらそのまま流されると判断したから咄嗟にあのような奇怪な行動に出たそうだ。
昔から人相が悪いと散々周りから言われていたので、ビビらせてしまったのではないかとその時三次は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。それゆえに、数週間後の新観で永井と再び出会い、真相を知った時は心底ほっとした。
「俺、昔から人見知りだから。三次のせいじゃないよ」
申し訳なさそうにそう言われる。永井は自分から人見知りだということもあって、中々うまいこと会話が成立しなかったが、三次の方が社交性もありそういう相手を苦としなかったので二人は自然と仲良くなった。
写真同好会の新入生が、永井と三次の二人だけだったということも一因だ。同級生が二人しかいないのだから仲良くしようという結論に落ち着いた。