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Prayer of jewelry

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大人すぎた少年。あれから5年が経った今、彼はどうなっているのだろうか…。
期待と不安を胸に、大理石で創られた階段に辿り着く。
ここは―――、楓と一緒に上った階段。

ふと階段の上に目を向ければ、一番上に一人の男の子が立っているのが見えた。
手すりに寄りかかるように立つ、そのひと。17歳になった、愛するひと。

「楓…」

ゆっくりゆっくり。階段を上っていく。響き渡るヒールの音。辺りを彩るオレンジの光。

「京香、か?」

楓は私のことに気づいたらしく、少しだけ微笑んでくれた。
来るのが遅ぇんだよ、なんて、相変わらず勝手なことを言いながらも、階段を上ってくる私に手を差し伸べて。
二人の手が、ようやく繋がる。

「やっと会えたね、楓」

ああそうだな、楓は最後に聞いたときよりも低くなった声でそう言った。
5年ぶりに見た楓は、想像以上の美少年に成長していた。
黒かった瞳はカラーコンタクトの蒼色に変わり、髪は艶やかな金色で。
はじめて出逢ったあの夜も、こんな風に彼の美しさに驚いたんだっけ。
やっぱり楓は、『綺麗なひと』のままだった。
どんな風に彼の顔を見ればいいのだろう。恥ずかしくて、目を伏せた。

「久しぶりだな、京香。ずいぶん変わったじゃねぇか」
「本当?」

5年前と明らかに違う、自分。
化粧も、顔立ちも、身体も。なにもかも完璧に仕上げた。すべて、目の前に立つ彼のために。
宝石が散りばめられた桃色のドレスを翻して、ふわりとまわってみせる。
シャラン、、、光のように煌く宝石が、楓の視界を踊る。

「私、変わったでしょう?」

こぼれる笑顔を浮かべたら、楓も微笑んだ。
こんな風に優しく笑う人だったかと目を疑うほどの柔らかな笑みで。



階段を突き進むと、イルミネーションで飾られた広い庭に出る。
中央に煌く噴水も、豆電球のつけられた木々も。12歳の記憶とちっとも変わっていない。

「ねえ、楓。覚えてる?」

噴水の縁に腰掛けて、溢れ出す水しぶきを眺めた。青、赤、黄…、きらきらと輝く水の欠片。

「あのときの約束、ちゃんと覚えてる?」
「覚えてるに決まってんだろ」

隣に座るひとが意外にも即答したから、私は当然驚いた。
きっと楓も、この日を待っていてくれたのだ。

「で、私は楓に認めてもらえたの?」

秋の気配を感じさせる夜の風が、少し肌寒かった。けれど。
楓が隣にいることを確認するだけで、とくん、と高鳴る鼓動が温かい。

「認めるもなにも…お前、全然変わってねぇじゃねぇか」
「なによ、さっきは変わったって言ったじゃない」
「外見はな」

え?と私は楓の顔を覗き込む。楓の言ってる意味がわからなかった。
今までずっと。私は外見が変わっていればいいと思っていたから。

「でも、中身はあの頃と全然変わってねぇ」
「な、中身…!?」
「無邪気で、考えてることは単純で。変わってねぇだろ?」

面白そうに言葉を続ける楓に、私は押し黙るしかない。中身に関しては私の中で対象外だったのだ。
だが、楓はまた口の端を上げる笑みを浮かべた。

「ま、そういうとこは変わってなくて正解だったかもな」
「それってどういう意味よ?」
「合格だって言ってんだ」

瞬間、噴水の水が一斉に吹き上がった。楓の金髪が風に揺れて、蒼い瞳が私の顔を真剣に見据える。


「お前を正式に俺の女にしてやるよ」


そのとき。5年前のこの噴水の前で見たあの少年が、楓に重なって見えた。
少年の幻は、幼き頃の渡部楓。過去も現在も未来も。楓は私の前にいるのだろう、きっと。

「おい。手出せ、京香」
「え?なによ」
「いいから出せ」

私は楓に言われるまま右手を出す。すると手の平に乗せられたのは、赤い小さな箱だった。

「これ…?」
「まだ早いが…一応渡しといてやる」

ゆっくりと箱を開いてみたら綺麗な指輪が収まっていた。
小さな小さな宝石で飾られた、大事な宝もの。
ありがとうって言葉すら出なくて。胸が、詰まる。

「この5年間、お前が俺を思ってたのは知ってる。俺もお前のこと、思ってた」

指輪の輝きが眩しいように、楓の言葉の一つ一つまでもが、
眩暈を覚えるほどの、光。

「愛してやるよ。この先もずっと」

これは押し付けられた結婚なんかじゃなく、愛し合った二人の結婚なのだと、今ならちゃんと言える。
そうでしょう楓?あなたの選んだ道なのだから。

「ずっと?私がおばあちゃんになってもだよ?」

涙を浮かべながら尋ねたら、楓は黙って優しく微笑むだけだった。
優しすぎるその微笑みが、とても幸せそうで。12歳の頃に見せた悲しい瞳なんか、どこにもない。

「これからも一緒にいてやる。ありがたく思え」
「…大事にしてよね」
「当たり前だ」

そう言って楓は、私の左手の薬指に、そっと指輪を嵌めてくれた。

ねえ、楓。
ここに、あなたとの未来を約束するよ。この宝石に祈りを込めて。


―――永遠の約束だよ。
作品名:Prayer of jewelry 作家名:YOZAKURA NAO