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てっしゅう
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「哀の川」 第九章 純一と杏子

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第九章 純一と杏子


杏子と部屋に入った純一は、つづきの話を一生懸命していた。時折読み方の解らないパンフレットを見せては、杏子に読んでもらっていた。時間の経過とともに杏子は純一が自分の子供だったら、どんなに可愛いだろうと想像した。間合いがあってじっと純一を眺めていた。

「杏子姉さん、何見てるの?」
「うん、純一君、可愛いなあって・・・ねえ、一緒にお風呂入ろうか?」
「ええ?お姉さんと?恥ずかしいよ、五年生だよ!」
「そうか、そうだったね。ごめんね、直樹パパね、まだ純一君ぐらいの頃、よく一緒にお風呂に入ってたのよ。仲が良かったから、恥ずかしいなんて思わなかった。今でも一緒に入れるわよ」
「ほんと!大人になっても?恥ずかしくないの?」
「好きだから恥ずかしくないのよ。ママと直樹パパだって一緒に入っているよ。じゃあ、先に入ってくるから待っててね」

杏子は浴室へ向かった。
「杏子姉さん!ボク・・・一緒に入るよ」
「ええ?ほんと、無理しなくてもいいのよ」
「好きだったら一緒でも恥ずかしくないんだよね?杏子姉さんの事好きだから・・・」
「嬉しいわ、私も純一君のこと大好きよ!早くいらっしゃい!」

二人はシャワーのかけっこをしたり、シャボン石鹸の泡で身体を洗い合いしたりして、まるで親子のようにはしゃいで楽しんでいた。

隣の部屋で、かすかに純一のキャアーキャアー騒ぐ声が聞こえるので、何をしているのだろうと聞き耳を立てていた。どうやら風呂場で騒いでいるようなので、麻子は杏子と一緒に入っていると思った。純一は麻子とも仲良くいつも入っているからだ。
「直樹、純一杏子さんとどうやらお風呂に入っているみたい。大丈夫かしら?」
「なにが?姉さんは純一君を僕のように感じているんだよきっと・・・僕たちは子供の頃本当に仲が良かったからね。ずっと一緒にお風呂も入っていたし・・・」
「そうだったの・・・わたしと姉みたいだったのね、いいわね、兄弟って」

子供の頃の思いは二人に共通の思いになっていた。

風呂場から出てきて、杏子は純一の身体を拭いてあげた。可愛い男性を指でぎゅっと握った。
「イヤだ!エッチ!やめてよ!」
「ハハハ・・・可愛いから悪戯したくなった」
「もう、そんなことするんだったら、お返しだぞ!」

純一は杏子の胸をつかんだ。柔らかい母と同じ感触が伝わってきた。

「いや〜、純一君こそエッチ!」
二人はまた大笑いになった。喉が渇いたので電話をしてジュースをルームサービスで届けてもらった。純一は美味しそうに飲んで、
「ねえ、ママたち何してるかな?一緒に飲めばいいのにねえ」
「じゃあ、電話してあげるよ」杏子は直樹の部屋に電話をかけた。

「はい、ああ、姉さん?何してるかって?何もしてないよ、ええ?そんなことしてないよ!姉さんたら・・・うん、解ったそちらへ行くよ。麻子、純一君が呼んでるって・・・少し隣に行こうか」
「解った、すぐ行くわ」
二人は隣へ移った。

「純一、杏子さんと仲良くやっているようね?」
「うん、一緒にお風呂入ったよ!楽しかった」
「姉さん変なことしなかったか?純一君」直樹は聞いた。
「・・・僕のあそこ触った・・・気にしてないけどね」
「やっぱりね、姉さん!ダメだよ、麻子が気にするから・・・」
「直樹さん、いいのよ、杏子さんと純一はとっても仲が良さそうだから、安心してる。ねえ、そうよね純一?」
「うん!僕たちは仲がいいよ、とっても。杏子姉さんの事大好きになったから、何されても平気!」
「それは意味が違うよ!ハハハ・・・純一君は幸せ者だなあ、ママが二人の居て」直樹はそう感じていた。

杏子は麻子の前で、いまさらに羨ましく感じた。

純一が眠くなりベッドで麻子は寝かせた。すぐに寝息を立てて眠ってしまった。一日楽しくはしゃいでいるので疲れたのだろう。子供の寝顔は無邪気でかわいい、そう麻子考えながら見ていた。

「純一君は本当にかわいいね、麻子さんは幸せですよ。今話すことじゃないけど、私は子供が出来ない体なの・・・病院で検査してそう言われた。体質だから治せないって。体外受精しか道がないと・・・別れた夫もそれを聞いて浮気したようなもの。女は子供が生めないとダメなのよね・・・二人だけでずっと仲良く生きてゆくなんて、理想。夢物語。再婚なんて私には出来ないことなの・・・」
「杏子さん、それは知らなかったわ。なんと言っていいか、解らないけど、子供がいらない人だっているでしょうから、諦めないほうがいいですよ」
「そうだよ、姉さん、姉さんのこと好きになって、子供が無くても一緒に暮らしてゆける人がきっと見つかるよ。元気出して!純一君が悲しむぞ」
「そうよね、いまさら悲しんでも仕方ないよね。もう何年も前に知ったことだし・・・なんだか湿っぽくなったね、ごめんね直樹、麻子さん」
「ううん、そんなこと無いよ、良く話してくれたわね。これからは三人何でも話して力をあわせるようにしましょう。私たちは部屋に戻るから、杏子さんはゆっくり休んでね」
「ありがとう、直樹も麻子さんも、これからね。頑張ってよ」
「姉さん!頑張って、は余計だよ。もう・・・」
「直樹が心配なのよ、ちゃんと男してるかって・・・あなた東京に行くまで彼女出来なかったし、その彼女とも・・・ごめん、言い過ぎた」
「杏子さんは、直樹のことが大切なのよね。良く解るわ。女はそう思える感情があるのよ。直樹には解らないでしょうがねえ」
「解ってるよ、いつも感謝してきたよ。でもこれからはボクも大人だし、子ども扱いはやめてよ、姉さん。なんだか母親みたいになってきたよ、ほんとに・・・」

直樹と麻子は部屋に戻り、杏子の話を聞いた重苦しい気分が抜け切れなかった。「直樹・・・今日はこのまま寝よう。わたし杏子さんのこと聞いて、今は悲しいの。とても愛し合う気分になれない・・・ごめんね」
麻子は涙を浮かべてそういった。直樹の腕に抱かれて、いつまでも眠れない夜を過ごした。

朝が来た。眠い目を擦りながら麻子は目を覚ますためにシャワーを浴びた。昨日の杏子の言葉が耳から離れない。同じ女性として身につまされるほどよく解るからだ。自分に純一が居る事の大切さをより強く教えられた感じがしていた。浴室を出てバスタオル姿の麻子に直樹は気持ちをそそられた。後ろから抱きしめて軽く耳元にキスをした。麻子の重苦しい気分は次第に直樹のすることで消えかかっていた。ふりむいて直樹の首に両手を回したその時バスタオルは、ストン!と床に落ちた。

「いや!恥ずかしい・・・ベッドへ連れて行って」
「恥ずかしくなんかないよ、ほら綺麗だよ。よく見せてごらん・・・」
直樹は麻子の湯上りの身体をじっくりと眺めていた。薄暗い室内とはいえ、小さい部分まではっきりと解る。ダンス大会のために絞り込んだ身体は依然そのままの状態を保っている。引き締まった端正な身体は、子供が居る36歳の女とは感じさせない。麻子は直樹がもう完全な状態であることを悟ると、押さえが効かなくなった。

「直樹、早く来て・・・あなたが・・・欲しい・・・」
「ボクもだよ、麻子」

重なり合って直樹はすぐに我慢出来ずに放ってしまった。小さな声で、早かったね、ゴメン・・・とつぶやいた。