罠
罠 その1
東京から1時間も電車で来れば着く小さな街である。
人口は15万人ちょっとである。
その街に1軒の画廊がある。経営しているのは吉村と言う男である。
妻はいるが子供はまだであった。吉村は43歳。妻は31歳であった。
妻は公務員で役所に勤めていた。退職を勧めているが、吉村の画廊を手伝う気持ちは無いと言う。
事務員1人と、販売員2人でやっているが、バブルから半分以下に下がったものが今は少しづつ値上がりを始めた。
中国からの需要があるからだ。
吉村は販売員を募集した。
2日後にスーツを着た女性が現われた。
着こなしの良さ、そして洗練された美しさがあった。吉村は上等な客と思った。
「いらしゃいませ」
「その募集を見てきました」
「そうですか、こちらにどうぞ」
吉村は店の奥に案内した。事務室があり、53歳の女の事務員がいた。
「佐々木さん店番頼みます」
「御掛けになってください」
「失礼します」
「履歴書か何かお持ちですか」