柊生さんとぼく
だから、あんな真夜中に彼女は一人歩いていたのか。自分の平穏な生活を崩す誰かを抹殺するために、そのついでに出逢った可哀想な死体に慈悲を施して。
「だから、すごくイライラするから、殺すの」
ぐちゃぐちゃにして、二十四回殺して、二十四等分して、粉々にして、完膚なきまで綺麗に壊して、蹂躙して蹂躙して蹂躙して蹂躙して、死という死を以ってその生を踏み躙って。
まだ見ぬ殺人鬼を圧倒的な暴力で捻じ伏せる彼女の姿が脳裏をよぎり、僕は言いようのない恍惚とした感覚が背筋を走るのを感じた。……ぞくぞくする。彼女に挑戦的な笑みを向けられたときよりも、彼女に抱きつかれたときよりも、こっちのほうがはるかに興奮する自分がいた。
……彼女は本当に人間なんだろうか。
そういえば先刻、きょーくんも人間だもんねと言ったほかに、人間のくくりに自分を含めていなかったような気がする。ならば、僕が肩を押さえているこの子こそが、闇の中から飛び出して僕を頭から喰らいつくす獣なのだろう。そう悟って戦慄した。同時にあの奇怪な恍惚が僕の官能を激しく刺激する。
そして僕は、黒曜石のような大きな瞳の中に―――食い殺された僕の幻影を見た。