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焔と化け物(5/22編集)

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 その日繁戒は、フィールドワークで遠くへ出かけた帰りだった。
 バスに乗ればよかったんだが、別に歩けない距離じゃなかったから歩くことにした。晴れてたしな。でも思ったより時間がかかってしまい、随分と暗い道を歩く羽目になってしまって、日が沈んでから後悔した。
 まあ、でもあと一時間も歩けば家に着く。歩くのは好きだし鍛錬のためそのまま歩き続けたが、前から何かが近づいてくる気配がした。けだが、足音がしない。
 その代わりに、おかしな音が聞こえてくる。

 たん、だん、だん、たん……。

「そう、キョンシーが近づいてきていたんだ。しかし、情けないことに俺はそれがはっきり見える所まで近づいてくるまでちっとも気づかなかったんだよな」

 キョンシーは繁戒を見つけると、追いかけてきた。

「何故だと? キョンシーは人間を食うからだよ。だから、食料発見と思ったんだろうな」

 繁戒は当然逃げた。たまに振り返りながらも全速力で逃げたが、キョンシーもなかなか早い。

「飛び跳ねているくせに、素早いんだよ。まだフェイキョンになっていなかったからマシだがな」

 追いつかれそうになった瞬間、繁戒は運よく太く高い木を見つけて、迷わずそれによじ登った。キョンシーは死後硬直を起こしているから、手は前に突き出しているし、足も曲がらない。故に、木登りなんてできない。
 案の定、キョンシーは悔しそうに木の周りをぐるぐる回り始めた。しかし、ずっとここにいるわけにもいかない。
 どうするべきかと頭を悩ませた繁戒は、懐にライターがあったのを思い出し、それから鞄の中から読み終わった新聞を取り出した。二枚三枚にまとめて思い切り絞り、それに火をつける。
 キョンシーは火に弱いのだ。火を見て怯んだキョンシーに向かってその火を投げると、キョンシーは気味の悪ぃ声を上げてその場に倒れた。繁戒はまた、今度は使い終わった資料をねじり、火をつけて投げた。
 かなり大柄なキョンシーだったのでそれだけではこと足りず、結局ライターの油を使い切るまで火をつけ、キョンシーを焼き払った。
作品名:焔と化け物(5/22編集) 作家名:狂言巡