逃避行
……意識はそこで途絶えてしまい、私は目が覚めました。
目覚めると、そこは瓦礫の山の上……なんてことはなく、いつもの私の部屋のベッドの上でした。もちろん怪我もなく、昨日着替えた寝巻きのままです。
リビングに行くと、兄さまは先に起きていらっしゃいました。
おかしいことなど、何一つありませんでした。
「おはようございます、兄さま」
「おはよう。スピカ」
私の挨拶をいつもの笑顔で迎えてくださる、優しい優しい私の兄さま。もし、あの夢が本当だったならば、大好きな兄さまにも会えず、こうして挨拶も一緒にお食事もできないでしょう。
いつもの日常。いつもの風景。いつもの何気ない会話。そして学校へ……。
この時以上に、こんな普通であることが素晴らしいと思ったことはないでしょう。
あの夢は、なんだったのでしょう。
今でもあの出来事は、実際に体験したかのように鮮明に覚えています……。