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真っ白な嘘

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真っ白な嘘をつく―――のがあたしの得意なことだった。ほら、映画であったじゃん。『妖怪大戦争』だったっけ。中学生にもなってこんなのが好きなんてダッセーとか思った?
あたし、昔からUFOとかお化けとか、そういうファンタジックなものが好きなんだ。
あ、ごめんね。話が逸れちゃった。
その映画の冒頭に、「僕は真っ白な嘘をつく。」という言葉があるんだけどさ。人を傷つけるのが真っ赤な嘘で、人のためにつくのが真っ白な嘘。
この真っ白な嘘のおかげで、あたしはなんとか学校生活を順調に過ごせている。
まず教室に入ればみんながあたしのことをすぐに見つけて、おはようと言ってくれる。あたしは持ち前のトークを炸裂させる。
「昨日弟が家出しちゃってさぁ!でも可愛いもんだよ小4なんて。五分もしないうちに泣きながら家に帰って謝ってくるんだから」
みんなは「マジでー」「ウッソー」となんだかワンパターンな返事をして笑う。あたしの舌がピリリと痺れる。嘘の快感。ここ最近、それにすっかり病みつきになってしまった。
確かに小学4年生になる弟はいる。けれど弟はどちらかというと引きこもりタイプだし、出て行けといわれてもきっと泣きながらしがみつくだろう。だってあいつ、お母さん大好きだしさ。
舌の痺れを助長するように、あたしの口から次から次へと話題が流れ出す。昨日お父さんが良い歳してTV見ながら泣いちゃってさぁ。イトコが出来ちゃった結婚しちゃってさぁ。
証拠も何もない、誰も傷つけない真っ白な嘘。みんなはワンパターンでありながらとても良い反応をしてくれる。
まるで明石家さんまにでもなってトークショーの司会者をしてる気分。
そして一通りトークが済むと、やっとギャラリーの口が開き始めてアイドルや昨晩のテレビの話題になる。そのときもあたしの返事はいつだって話題を引き立たせる。

だって、あたしにはこれしかない。成績は中の下で、部活だってやってないし、家に帰ると猫や弟妹たちの世話ばかり。
感受性なんて存在するかすら怪しい両親は「勉強しろ」の一点張りで、たまにテレビを見ると嫌味をぶつけられる始末だ。
こんなつまらない日常の話を聞いて、誰が笑ってくれると思う?あなただって欠伸が出ちゃうでしょ。
そんなあたしの生きる術。唯一の長所。話し上手ってこと。「里奈って面白いよね」って言われることなんてしょっちゅう。それを生かさないわけないでしょ!
罪悪感を感じることなんてないよ。誇り高い真っ白な嘘なんだもん。
自己満足?何それ。知らない。あたしはみんなを楽しませてるだけ。明石家さんまや島田紳助はちゃんと給料がもらえるけど、あたしのは至って慈善事業。
みなさまの笑顔がボーナスです。なんちってね。
でも、みんなが(あたしほどじゃないけど)面白い話をしているのを聞くと、そしてそれが嘘じゃないんだって思うと、うらやましくてしょうがなくなる。
例えば、優しい家族の話。他校の部活メイトの話。彼氏の話。これって妬ましいっていうのかな。
そしてあたしは時々考える。
「もうすぐ中間試験で遊んでる暇ないでしょ。だから昨日はすぐに家帰って手を洗って勉強してでもまた怒られてご飯食べて風呂入って寝ちゃったよ」
なーんて言ったら、みんなどう反応するのかなあって。

男子は包み隠せずストレートに発言する、デリカシーなし!

・・・ってみんな文句言ってるけど、その点女子の方がずっと残酷。痛いポイントをわざと突いて、どうすれば一番傷つくか分かってるんだ。
「ふーん、里奈ちゃんってつまらない生活してるんだねー」
一人になりたくない。人気者になりたい。
あたしは、真っ白な嘘をつく。

なのに。

「それ、嘘でしょ。」

あっさり見破られてしまった。

月子だった。
月子というのは、本名「月見京子」って名前のクラスメイト。
けれど、(顔にとんでもなく)ニキビがひどくって、月面みたいだからみんな「月子」と呼んでいた
容姿がひどいだけではなく、月子は空気が読めない奴として有名だった。班決めや団体行動では自分から輪に入ってこないどころか、やりたくない役になると黙り込む。
つまんないときはつまんないときっぱり言う。そんな奴だった。いわゆる、日本人向けしてないって感じ。
月子は入学してあっという間にハブられて(もとい、仲間はずれにされて)、なかよし教室(もとい、馴染めない生徒を集めたハブ教室)行きになってしまった。
久々に教室復帰したと思うと、月子はあたしを嘘つき呼ばわりしてきたのだ。
不意を突かれ過ぎて、言い返すタイミングを逃してしまった。
「だって川野さんしゃべってるときめちゃくちゃ目が泳いでるよ」
違う。それはギャラリー一人一人の目を見て話してるからだ。
でも、結局嘘は嘘だ。月子はそれが言いたかったのだろう。なんだか悔しくて、月子を睨んでしまった。自分は話し上手だと思っていたのに。
睨みつけるあたしに、月子は困ったように肩をすくめた。なんだか自分が子どもっぽくなった気がした。
慌ててあたしは、言う。
「んなわけないじゃん。何言ってるの」
そしてそのままみんなの輪に入っていった。みんな心配そうに何を話していたかを聞いてくる。「にきびが移っちゃうぞ」なんて失礼な冗談を飛ばす。

ああ、今の嘘は赤かった。自分のための、嘘だった。

これも全部月子のせいだ。そういう思いやりのない発言ばかりするから、友達が出来ないんだよ。自業自得。
あたしの方が月子より勝ってる。あいつの赤いニキビを睨みながら、心の中でガッツポーズをつくった。あたしはまだ、ほとんどニキビが出来たことがないもんね。
この日からあたしは必死に嘘を白く染め上げていく努力をした。
いかにリアリティのある話を、いかにみんなが笑ってくれる話を。舌の痺れはいまや罪悪感や違和感を感じさせないほど当たり前になっていた。
結局、そんな無駄なことばかりしていたあたしの中間試験の結果は、相変わらず悲惨で。
テスト返しに盛り上がる教室の中で珍しくあたしは静かだった。だって、口を開けばこのひどい数学の点数を聞かれちゃうんだもん。
でも、必死に空気になろうとしているのにも関わらず、自慢したがりのユッコやみいみいは嬉しそうにテストを見せてくる。
「今回の簡単だったよね?全然勉強しなくても80近くとれたもん!里奈はどうだった?」
「まぁまぁ、かな」
ぼそぼそと答えるあたし。点数での嘘はばれやすいしリスクも大きい。白くない嘘は避けるべきだ。
「ちょっと、見てよあれ」
みいみいが指した先には、月子がいた。持っているテストには、「月見京子 96点」と書かれている。
「あんな見せびらかしちゃってさ、自慢かっつーの」
自分のことは棚に上げて、みいみいは毒づく。
みいみいって可愛いんだけど、こういう悪口を言うときはすごく怖い。
いくら教室復帰したといっても、月子はいまだになかよし教室へ通っていた。なかよし教室ではほぼ一対一の少人数授業だ。そこで数学をみっちり補習してもらったに違いない。
以前嘘つき呼ばわりされたことも含め、あたしは月子のことを前よりずっと良く思っていなかった。
これは本音だろうか?それとも思わず口から飛び出したデマカセだろうか?気づいたらあたしはこんなことを口走っていた。
作品名:真っ白な嘘 作家名:夕暮本舗