時間泥棒
目が覚めたとき、そこは自分の部屋だった。
どれくらいの時間を失ったかわからなくて、私は焦った。
携帯電話を開いてもう一度驚いた。日付は四月を示していた。メールは一件も着てなかった。今日は入学式の日だ。
親は早く支度しろとスーツを着ながら言った。
制服はまだ糊が効いていて、ぱりっとしていた。
わけがわからないまま、私はふらふらと学校へ向かった。
玄関には名簿が張り出されている。
それを見て、やっと事態を理解した。
盗られた分の時間を取り返された、結果なのだ。まさかこんな前に戻されるとは思わなかった。
クラスに、木谷くんの名前はない。初めから存在していないことになっていた。
川崎さんはやっぱり私の後ろの席だったが、挨拶を交わす程度でそれ以上親しくなることはなかった。
否、私が避けた。結果、私たちはそれぞれ違うグループで高校生活を過ごすことになった。それが日常なのだ。
この奇妙な体験のことを、私は誰にも話さなかった。言ったところで変人扱いされただろう。
でも、私は思う。ある意味救われたのではないか、と。
もしかして、あれが彼の好意だったのかもしれないと思うのは自惚れだろうか。
彼は私を救うつもりで時間を盗ったのではないのだろうか。
たくさんの「もしかしたら」が浮かんだ。
考えれば考えるほど腹が立った。
私は一生、彼を許さない。
それは忘れないということだ。
それは憎しみで、感情ということだ。
生きている、という意味は未だにわからないけれど、もしかしたらそれは、こういうことなんじゃないかな、と思った。