妻との再会
妻との再会
「ありがとうございます。どちらへ参りますか?」
乗務員が尋ねると、乗客は目をまるくして叫ぶように云った。
「貞道さん!何よ。急にいなくなったと思ったら、嘘でしょ。貞道さんがタクシーの運転手?!」
「あの、目的地を聞かせてください」
「ちょっと!冗談なんでしょ?ねえ、本当にタクシーの運転手になっちゃったの?」
「とにかく、ここから動かないと、後ろの車の乗務員から怒鳴られますよ。行き先をおっしゃってください」
そこは駅のタクシー乗り場なので、順番に先頭の車から走り出すことが当然のルールだった。
「じゃあ、うちへ行って!」
「うち、と云われても困りますよ。ご住所はどちらですか?」
「自分の家がわからない?そんな人は小説とかドラマの中にしかいないわ」
とうとう後ろのタクシーにクラクションを鳴らされてしまった。谷村は仕方なく二メートル程車を前進させた。
「お願いします。ご住所を教えてください」
女性客は漸く住所を云った。谷村はそれをカーナビに入力してから「実車ボタン」を押し、車を発信させた。