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マーメイドマン

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深い海の底には人魚たちが棲んでいる。
美しい髪と海のように深い瞳も持つ美しい人魚たち。
上半身は地上に住む人間という生物たちと同じだが、下半身は鱗で覆われ海を泳ぐに適した大きな尾ひれがついていた。

人魚たちの中に6人兄弟の男の人魚たちがいて、どの男も大変に立派な体格と美しい顔を持っていて女性の人魚たちがいつも群がっているのだった。
が、一番末の男人魚はいつもそういう群れから離れてどこかへ消えてしまうのだ。


弟の名前はフィンといった。
「フィン。お前は変わっているな。なぜ女の子たちと遊ばないんだ?」
そう聞かれてもフィンは首を振って何も言わない。
だが彼は、兄弟の中でも一番背の高い兄と同じくらいすらりとして、一番ハンサムだと言われる兄とそっくりだった。
目は誰よりも深い色を湛え、広い肩と滑らかな背は誰よりも美しいと女人魚たちから騒がれたけれど、フィンはそんな言葉を聞いても何も感じないのだった。

フィンはどこへ逃げ出していたのか。
彼は海の上へ上がって通り行く船を見るのが好きだったのだ。
船と言うのは地上の人間が作ったもので人魚たちのように海の中を泳げない彼等はそうして海を渡っていくしかない。


いつものようにフィンが海の上に
上がっていくと大きな船が通りかかり、その船縁になにか動くものが見えたのだ。

なんだろう。あれは。

それは人間の若い男だった。

上半身の形は自分たちとよく似ているように思えるが、表面は見慣れないもので覆われている。そして驚いたのは自分たちの美しい鱗とひれの代わりに地面を歩く為の二本の杖のようなものが身体を支えているのが見えた。

フィンは何故だか、その姿を見て胸がときめくのを覚えた。今まで一度も感じたことのないざわめきのような感情がどこか苦しくて息のできないような不思議な感覚がフィンの胸に宿った。

その時だった。それまで静かだった海は突然大きくうねり始め、激しい風と雨に船はもまれ大きく傾いだ。船縁にいた若い男はあっという間に海へ投げ出された。

「いけない」
フィンは地上の人間たちが自分たちのように泳げないことを聞いていた。しかしフィンはすぐに若い男の姿を見つけた。
気を失っているのか、海の底へと沈んでいく。
フィンは逞しい腕とひれで力強く泳いで男を抱きかかえ海上へと浮かび上がった。



フィンは無我夢中で泳いだ。今までで一番早く遠くまで。そしてやっと人間が住む陸地へと辿り着いた頃にはもう明るくなっていた。
浅瀬になっている岩場の上にフィンは男を上げた。
「生きているだろうか」
顔を覗き込む。男は明るい茶色の髪をしていて、顔立ちはフィンやその兄弟のように美しく整っていたがもっと愛らしく見えた。
そう思った途端、またフィンの胸は締め付けられるようだった。
身体にべったりとくっついた薄いなにかははだけて滑らかな胸が見えた。そこにはフィンにはない小さな柔らかそうな突起がある。
フィンは思わず胸に耳を当てた。
心臓の音が聞こえる。
顔を上げる時、その柔らかそうな突起をそっと口でつついてみた。
小さな溜息が聞こえた。
フィンはもう一度男を胸に抱き上げて包み込んだ。
「起きてくれ」
そっと耳にささやく。
男はうっすらと目を開けたかのように思えた。

その時だった。
どこからか、騒ぐ声と急ぐ足音が聞こえた。
人間たちに違いない。
フィンは慌てて男をその場に寝かせると、海の中へと消えていった。


数日、一人きりで思い悩んだフィンは海の底のまた奥底に棲む不思議な男を訪ねていった。
男はいつも謎めいていてフィンは恐ろしかったが、こういう話を聞いてくれるのは彼しかいないような気がした。
フィンは人間と出会い、説明し難い感情を持ったことを話した。
「それでお前は何を願っているのだ」
「俺の願いはあの人と深い契りを交わすことだ」
その男は頷いて七色に光る瓶を彼の前に差し出した。
「これを飲むがいい。そうすればお前のその鱗と尾びれはなくなり、人間と同じ脚が生えてくる。だがその代わり、お前は今まで味わったことがないような
苦しみを味わうことになる。そしてもしお前の願いが果たせなければお前はその時、死んでしまうのだ」
あの人にもう一度会えないのなら死んだも同じだとフィンは思った。
礼を言い、慌てて出て行こうとするフィンをとどめたのは海底の男の低い声だった。
「待て。その薬と引き換えに俺はお前の声をもらうことにしよう」
言うが早いか、男がフィンの喉に触れるとフィンはもう何も話せなくなっていた。
戸惑いながらもフィンは薬の入った瓶を抱いて再びあの若い男を運んだ陸地へと急いだ。



あの時と同じ場所へ行くとフィンは海底の男からもらった薬を飲み干した。時はちょうど夕日が沈む頃。辺りは暗くなり始めていた。
激しい痛みが彼を襲い、身悶えて苦しみ抜いた。
夜明け近く、永遠に続くかと思われた激痛が薄らぎ、見ると今まで下半身を覆っていた鱗と尾びれがなくなり、あの若い男と同じような長い二本の脚があった。
そしてそれと同時になんと言うことだろう。
その二本の脚の付け根に今まで見たこともない奇妙な物体がついているのだ。
丸くややしわのある袋状のものは触ると中になにか入っているようだ。
そしてそれに柔らかな管のようなものが付属している。
いったいこれはなんだろう。
胸にはあの若い男と同じように小さな印のようなものが現れている。
それを見てフィンは別れた時の男を思い出した。
可愛いとさえ思える顔立ち、栗色の髪、仰け反った喉と滑らかな胸にうっすらとした小さな突起があることを。
その途端、フィンに新しく芽生えた脚の付け根にあるそれがいきなり持ち上がるのを感じた。それは固く熱くなり、触れただけでどうにかなりそうな狂おしさを感じた

。それは今までフィンが感じたことのない苦しさだった。身体の中でなにかが荒れ狂い外へ出ようと駆け巡る。
今まで以上にあの男が欲しいと体中が呻き悶えていた。頭の芯が痺れ燃え上がってしまいそうだった。

このことだったんだ。あの海底の男が言っていた苦しみとは。この苦しみを癒すにはどうすればいいんだろう。どうしようもないフィンは固く腫れ上がったそれを静めようとそっと触れた。
はあっ。
激しい快感と共にその先端から液体が迸った。
突然のできごとにフィンはへなへなとその場に倒れ気を失った。


フィンが目覚めた時、彼は柔らかなものに包まれていた。
側にはあの若い男とはまったく違う人間が二人いたが、フィンが目覚めたのを見て喜んだ。

「まったく不思議なことがあるもんさね。数日の間に二人の若い男が突然海の岩の上に倒れているなんてね。しかもお前さんは
まったくの裸だったんだから驚いたよ。前のお方はとても立派な美しい方で身につけていた服も高価なものだと一目でわかった。
なんと海の向こうの王子だと言うことが判ったのだよ」

二人は歳を取った男と女できっとあの若い男を見つけたのだ。

「そしてちょうどお城の姫様が通りかかってひと目見て王子に恋をなされた。今はそのお方はお城におられる。
姫は王子にぴったりの美しく聡明な方だ。きっとお似合いのご夫婦になられるだろう。これも神様のお導きなのだろう」
作品名:マーメイドマン 作家名:がお