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てっしゅう
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「哀の川」 第七章 二人の再婚

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それぞれに頭を下げて挨拶した。直樹は麻子が大西から山崎に性が変った経緯を少し話した。純一が居る事も話した。
「母親の隆子です。この度は直樹がご縁でめでたいお話を聞かせていただき嬉しく思います。ふつつかな息子ですがどうか末永く慕ってやって下さい。子供の頃から引っ込み思案な子でしたが、東京へ行くといった時はビックリしました。一人で暮らせるんやろうかって心配しましたが、一人前になって・・・何の連絡も来ませんでしたが、急にこんな縁談を聞かされて、夫と二人どんな方やろうかって想像していましたが、いや〜東京の人は違いますなあ。女優さんみたいなお嫁さんで二度目のビックリです」
「まだ早いですけど、お母様、お褒め戴き嬉しく思います。直樹さんはわたしのような子供が居る女を、それに年も35歳なのに真剣に愛してくれた事に感謝しています。一生大切にして尽くしますので、どうか応援して下さい」
「何を言わはりますの。感謝せなあかんのはうちらの方です。わがままな直樹をこちらこそお頼みします」

麻子は嬉しかった。直樹の母親の気持ちがストレートに伝わってきたからだ。そして、二つ下の杏子も感じの良い義姉として話せるような気もした。打ち解けて歓談が進みその夜はここのホテルに泊まる事にした。両親と姉が帰ったホテルのロビーで、一日の疲れが少し出た麻子は、直樹にもたれかかるようにして身体を休めていた。

レストランより高い位置にある部屋の窓からは、神戸湾と街の明かりが一望できた。その美しさにしばらくは見惚れていた。直樹はこれまでの自分を振り返っていた。初めて東京に出てきたとき、右も左もわからずうろうろしていた自分に声をかけてくれた専門学校生の佳代。その事が縁で交際して、生まれて初めて女性の身体に触れたこと。生まれて初めて女性に好きって言われた事、佳代も初めてだったので上手く出来ずに半ばで出ちゃったこと。

しばらく付き合っていたが卒業とほぼ同時に佳代は地元に帰って行ったことで別れてしまった事。その後は誰とも付き合うこともなく、加藤の会社に就職し、何かと面倒をかけた専務の好子に姉に似た感情を持っていたこと。ダンスレッスンをしている麻子の姿に惚れて、下心満々で教室を覗いた事。裕子と麻子が姉妹であったこと。そして、誘い誘われて麻子とホテルに入ったこと。不倫をしたこと、そしてもう一つ不倫を重ねた事。姉のように慕っていた好子と誘われたとは言え、身体を重ねた事。女の身体の違いをはっきりと覚えた事。

ベッドで横になっている麻子は軽い寝息を立てていた。疲れが出たのであろう。シャワーも浴びずに化粧も落とさずに寝てしまっている。その姿をじっと眺めながら、これまでの時間が頭の中をよぎっていた。これからは麻子と二人そして、純一と三人で家族として、一会社のオーナーとして、頑張ってゆく決意を胸に認めた。

六甲から見る神戸の町は歴史と人情のある町並みだ。この美しさをいつまでも記憶に留めておきたと、直樹は依然外を眺めていた。