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『喧嘩百景』第1話不知火羅牙VS緒方竜

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 ――効いたで、こん畜生。女のくせに喧嘩慣れしとるやないか。
 羅牙はひょいと手すりに跳び上がった。
 逃がさへん!
 竜は手を伸ばして何とか彼女の腕を掴んだ。
 「掴まえたで」
 見上げると彼女はまだ笑っていた。
 「よっ、と」
 羅牙の手が竜の腕に掛かる。
 掛け声とともに彼女は竜を引き上げた。
 ――うそやろ、こんな―――。
 竜の身体は軽々と宙を舞った。
 手すりを乗り越え、次の瞬間には背中から図書館の外壁に叩き付けられる。
 竜の身体は五階建ての図書館の屋上から吊される形になった。
 細身とはいえ七○キロはある竜の身体を小柄な羅牙が腕一本で支える。
 背中から叩き付けられたので、竜の眼前には五階からの風景が広がっていた。すうっと背筋が冷える。
 自分を支えているのが小柄な少女一人と知っているので、竜は身動き一つできなかった。下手に動けば二人とも真っ逆様になりかねない。
 彼はそろーっと上を見上げた。
 「聞いてるよ、百戦百勝、常勝不敗ってね――どうだい?初めて負けた気分は?」
 ま、負け?――負けたやと?この俺が?
 「まだや…、まだ負けてへん」
 竜は羅牙の手首を握り締めた。
 汗が滲む。
 羅牙がにやりと笑った。
 「あたしの勝ちにしとこうや、な、緒方。みんなにゃ黙っといてやるからさ」
 がくがく震えている竜の手を羅牙はぎゅっと握ってやった。
 ――ま、ま、ま、負けてへんで、こん畜生。じ、じ、地面の上やったら、こ、こないなこと…。
 竜は、足先からだんだん血の気が引いて、身体が凍り付いていくのを感じていた。極度の高所恐怖症――。
 竜の初めての敗北はこうして決定した。