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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『消えた砂丘』  2

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     『消えた砂丘』
  
        2

今日も早朝から、砂防林一帯は激しい騒音に包まれている。
「海浜レジャーランド」の建設予定地である砂防林に、大型ショベルカーが入り、小松や雑木を容赦なく押し倒して行く。その後をチェーンソウや鉈を持った年老いた男女の作業員が、トラックを従えて追って行く。

そもそも、この遊園地建設には強い反対があった。
一部の地元民に自然保護運動家達が加わり、残された海辺の自然を守ろうと、市庁舎前で座り込みまでした。彼等の反対の背景には、隣の市に大手資本による同種の遊園地が既に有り、この上貴重な海浜の自然を潰してまで建設したところで、果たして採算ベースに乗るだけの集客が可能かどうかという疑問があった。

Y市は、昭和三十年代の町村合併で町になり、最近漸く市に昇格したばかりで、市の執行部としては庁舎を始め市に相応しい種々の公共施設建設のため、新たな財源が欲しかった。
隣市の遊園地の盛況振りを見るにつけ、遊園地建設には予て意欲的だった。
結局、当初予定の工業団地造成計画は昨今の不景気により企業誘致に困難があることと企業業績の如何で税収も左右されやすい等の理由で撤回し、より確実性の見込める遊園地用地として賃貸する代案をもって市議会の承認を得た。
賃貸先は県内の数箇所に店舗を持つ地元スーパーの黒井興業である。

噂では、桜田市長が賛成票取り付けに議員間を奔走したと言う。

建設予定区域の外郭には、前以て杭が打ってあった。
従って、区域内ならばショベルカーの運転手は多少無神経に運転しても、周囲の作業員達にさえ気配りを欠かなければ問題はなかった。

砂防林の外れまで来てUターンした時、妙な物音と僅かながら衝撃を体に感じた。
永年の経験により、巨大なマシーンを通しても異常を直接肌に感じることが出来る。
「何だ?」
独り言を言いながら、ブレーキを掛けると、高い運転台から身軽に飛び降りた。
後部に回ると、押し倒された松や雑木の傍らの砂地に小さな石地蔵が横倒しになっている。

「何でこんな所に、こんな物があるのだろうか?」
信心深いとみえ、慌てて石地蔵に駆け寄ると抱え起こしたが、砂地のため、うまく立たない。
見回すと台座らしいものが傾いているのが、目に入った。
「これに載せろというのか?」

台座を平らにするため、底の砂を片手で掻いた。
砂中に白い枯れ枝のようなものがチラッと見えた。
「何だ?」
不審に思った運転手は、再度砂を掻いてみた。
しかし、サラサラした砂は、すぐ崩れ、白い物を覆い隠した。
今度は両手を使って思いっきり掬い取った。

砂地に生まれた窪みの中に、ぼろ布の纏わり付いた人間の掌らしい骨の一部が現れた。
「ウヒャー」
運転手は凄まじい声を上げて、その場に腰を抜かしてしまった。
近くにいた作業員達が何事かと走りよって来たが、その場の有様を見ると、彼等も一様に立ちすくんだ。
漸く、一人が工事現場事務所の方へ、青い顔をして駆けて行った。

事務所からの110番通報で、最寄の駅前派出所から若い巡査が自転車で飛んで来た。
既に大勢の野次馬が詰め掛けている。

彼は早速現場保存のイロハであるロープを張り巡らせた。
出来るだけ広く確保することが好ましいと教えられていたので、人骨の出た砂地の窪みから、半径10メートルほどを立ち入り禁止区域とした。

間もなく、サイレンのけたたましい音と共に、数台の警察車が到着した。
十数人の係員がバラバラッと下車すると、作業中で足場の悪い砂防林の中を飛び跳ねながら、現場に集まって来た。
所轄のY警察署刑事課強行犯係の鬼ゴンこと鬼沢権三郎警部補他の面々である。

鬼沢は現場保存の手際の良さに感心したのか、ゴマ塩頭を掻きながら、頻りに頷いている。
時折、周囲の野次馬に視線を送るが、その眼差しは鋭い。

五十歳とは思えない、プロレスラー並みのガッシリした体躯は、さすがその昔関東管区四万人の猛者を相手に優勝した柔道五段の実力を偲ばせる。
その容貌は、寺の山門の仁王様そのもので、容疑者達はその大きな目玉で睨まれただけで震え上がると言われる。

反面、出所後の受刑者達から「おやじさん」と慕われる優しさも持ち合わせている。
噂では、実刑が決まり愈々入所する受刑者達に、
「暫くは、女の握った飯は口に出来ねえだろうから」
と、前夜奥さんに作らせた握り飯の包みをソッと渡すらしい。
これには、受刑者達もさぞかし胸にジンと来るものがあるのだろう。

林の外れに、大型ショベルカーが死んだ巨象のように放置されている。
その足元に小さな石地蔵が横倒しになり、少し離れた砂地の窪みにボロ布と白っぽい物が首を出している。

数人の係員がショベルで堀り始めた。
掘り進むにつれ、一同の顔色が変わって行った。
骨の量が妙に多いばかりか、遂には頭蓋骨が二つも出て来た。
白骨は二体だったのだ。

一体は成人男子のもので、他の一体は幼女だった。

検死の結果、男子の方は衣服の破れと血痕らしきシミから刺殺と鑑定されたが、幼女の方はかなり年数を経ていて困難を極めた。僅かに残っていた衣類と思しき繊維から死因は散弾銃による出血死の可能性が高いと推測された。しかし、妙なことに、使用された筈の散弾が全く見つかっていない。
一体、弾は何処へ消えたのか。
すべて体を貫通したというのか。

ともかく、Y署に捜査本部が設置され、殺人事件として本格的な捜査が開始された。

先ず、白骨死体の身元割り出しのため、主に老人達を対象に聞き込みが行われた。
いくつかの報告の中に、戦後間もなくの頃の幼女の行方不明事件があった。
当時まだ四、五歳の可愛い盛りで、警察や消防団が八方手を尽くして捜したが、どこにも見当らず、結局海にでも呑まれたのだろうと捜索が打ち切られたと言う。

村人の中には神隠しとか人さらいの仕業だと騒ぎ立てる者もいたらしい。

Y署の古い記録を詳細に調べた結果、当時の捜索願いの中にそれらしい該当者を発見した。
名前は桜田百合子と言い、当時五歳で、驚いたことに、目下贈収賄事件で話題の市長の桜田正治の実妹だった。

捜査本部は、石地蔵下から出て来た幼女の白骨死体が、果たして桜田百合子なのか、唯一の肉親である兄の桜田正治に確認を依頼することになった。
Y署に出向いて来た桜田は、地検による取り調べのせいか、かなりやつれた表情をしていた。
 
早速地下の遺体安置室に通され、小さな白木の棺の前に立った。
係員が蓋を取り引き下がって一礼すると、桜田はおもむろに棺の中を覗いていたが急に棺の端に取りすがって泣き始めた。

それはスーツ姿の現職の市長としては、いかにも不釣合いな、哀れな姿だった。

立ち会った鬼沢も、その余りにも激しい悲しみように圧倒される思いがした。
連日の地検での取調べによる心身両面での困憊が重なっての、感情の爆発だろうと想像した。
桜田の背に向かって尋ねた。
「妹さんですね」
「はい」
声がかすれていた。

桜田が帰った後、鬼沢は考えた。