「新シルバーからの恋」 第六章 お見合い
伸子に言われたように悦子は確かに変った。物事をはっきりと言うようになったし、時と場合によっては遠慮しないで言うようにもなった。全てを受け入れてくれている夫の存在は有難かった。いつか詫びようと思っていることはもう封印することにした。これから先、思い出すこともなくなるだろう事を話す必要がない。今は幸せに過ごしている時間を大切に守らないといけないし、男のプライドを傷つけてもいけない。
副島の印象は悪くはなかった。几帳面で頭の良さが目だったが、少し人生の楽しみ方をシフトしようとしていることが解かっただけで、悦子には安心感が持てた。
「美雪?私・・・今度の土曜日の夜空いてる?」
悦子は携帯に電話を掛けた。
「お姉さん、はい、予定はありませんけど何か?」
「うん、前に言っていたあなたに紹介するって言う人、その方と私と主人で一緒にカラオケにでも行かない?ボックスだと周りに気遣いなく話が出来るでしょう?唄ってもいいし」
「カラオケですか?・・・ん〜、どうしようかな。最近行ってないから唄えないかも知れないし・・・」
「いいのよ、唄いに行くのが目的じゃないから・・・それにリラックスした雰囲気でお会いした方が話も気楽に出来るでしょう?行きましょうよ」
「ところでお姉さんの印象はどうでしたの?」
「そうね・・・外見は50点だけど性格は80点ぐらい付けれるわよ。それ以上はあなたが話して決めないと付けられないと思うわ」
「50点ですか・・・こだわらないって言いましたが・・・そうでしたか。ご主人って何点付けるんですか?ちなみに」
「えっ?夫・・・そうね、外見は50点しかあげられないけど、中身は今は100点よ」
「うふっ・・・だったら同じっていう事ですね?そうですか・・・ご主人素敵ですよ、お世辞じゃなく」
「チラッと見ただけで解かるの?」
「女はね男性のことチラッと見ただけで全部解かるんです。悦子さんだってそうでしょ?着ている物とか、髪とか、肌とかすぐに目に入るでしょう?」
「そう言われると、そうかも知れないけど・・・中身までは解からないよね?」
「中身まで解かったら失敗しませんのよ、ハハハ・・・だから騙されちゃう、いつも」
「今度は大丈夫よ。しっかりとした人だから」
「そうよね、奥さんに浮気される人って、する側の人じゃないでしょうからね・・・いいですよ、会います」
週末の土曜日は美雪にとって将来を決める男性と会う日になった。
カラオケボックスに入って悦子は美雪と隣同士に座り、夫の順次は副島と並んで座った。美雪は考えた末に少し短めのスカートを穿いてきた。やはりより若く可愛く見られたいという気持ちからだった。
「美雪さん、こちらが副島行則さん、主人の会社の同僚の方。副島さん、こちらが中山美雪さん、お話しました保険の仕事されている知り合いです」
先に副島が挨拶をした。
「中山さん、初めまして・・・失礼なお願いを平川に頼みましたことをお許し下さい。そして今日はここに来ていただいて本当に嬉しく思っています。副島行則と言います。63歳になります。三友銀行本店に勤務しております」
「ご丁寧にありがとうございます。中山美雪です。大阪生命法人事業部に勤務しています。悦子さんとはお姉さんのように親しくさせていただいています。甘えさせてもらって、私の方こそ探るようなことをお願いして済みませんでした」
「いいえ、そのようなこと気にしておりません。ちょっと緊張していますので言葉に失礼があってもお許し下さい」
美雪は少し震えるようになっている副島を見て緊張感を取ってあげたいと言葉遣いを変えた。
「副島さん、紹介が終わりましたから今からは普通にお話ししませんか?なんだかかしこまっていると疲れますから・・・」
「ええ、そうして下さい。私は構いませんよ」
「はい、そうします。私は58歳です。いい忘れました」
「本当なんですね・・・初めて見たときから知らされていた年齢が信じられなくて。お若いですね、秘訣があるのですか?」
「おい、副島、初めからそんな事聞いて失礼じゃないのか?」
「平川さん、構いませんのよ。嬉しいこと仰って戴いて光栄ですわ。本当にそう思っていて下さるのなら、母にそして父に感謝しないといけませんわ。自分独りでなったことじゃないですから。秘訣はないですの・・・お姉さん言っていいのかしら?」
美雪は悦子とエステに通っていた。もし夫に内緒だったらいけないと思い美雪はそう聞いた。
「エステのこと?いいわよ」
「そう、副島さん悦子さんとご一緒にエステに通っているんですのよ。そのせいかしら・・・」
副島はチラッと平川の方を見た。
作品名:「新シルバーからの恋」 第六章 お見合い 作家名:てっしゅう