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ぼくのウルフマン

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「いいなあ、その絵さ、よかったらくれよ」
「え、これを?」
「コピーでもいいけど」
リアルのウルフマンがぼくのウルフマンをそんなに気に入ってくれたのか。少しぼくもうれしくなる。
「いいけど、できるなら色をつけたいんで、仕上げてプリントアウトしてからでいい?」
「すげ。お前、なんだかすげえ本格的なんだな」
「明日、持ってくるよ」
「そんなに早くできるんだ。天才だな、お前」
恋人のウルフマンのリアルバージョンから讃えられぼくはいい気分だった。
 リアル・ウルフマン、近くで見るとますますイメージ重なる。ぼくは彼のことが好きだけど、ぼくの場合は奥上達朗が好きなのか、ウルフマンが好きなのか、自分でもよく判らないんだ。でもこれで初めて普通の会話をしたみたいな気がする。しかもウルフマンの絵を介して。これって何かの縁かもしれない
 
 夕食と風呂を済ませたぼくは自分の部屋にいる。机の上には教科書、辞書、ノートを広げているがぼくの魂はそこにはなかった。
 またしてもぼくは金色の髪の青年アレクスになっている。すらりと伸びた脚、広い肩幅、細く絞れた腰、白いシャツに灰色のズボンという簡単な服装が却って彼の美貌を引き立てている。
「ここにいたの、ウルフ」
アレクスが話しかけたのは他でもないウルフマンだ。城の中の東屋でウルフマンは皮製の黒衣装に身を包んでいる。つば広の帽子を被り長いマントを着けていた。アレクスの声に彼は顔を向けたがその目は以前の怖ろしい目とは違う。愛しい人を見る目だった。
「また憂鬱になってたんだね」
アレクスは跪いてしなやかな体をウルフマンに凭せかけた。彼の鼻腔はウルフの強い体臭を吸い、その為に彼の青い目はうっとりと潤んでいる。ウルフマンは隠されていない剛い毛の生えた巨大な手でアレクスの柔らかな髪を撫でた。
「もうここにいる必要はなくなった」
アレクスははっと頭を上げ彼を見る。
「では旅立つのでしょう」
彼は頷く。アレクスは立ち上がり彼に背を向けて涙を零した。
「ぼくのことももう必要ではないね」
いつも動揺することのない強靱な人狼がアレクスの悲しみに満ちた声に動かされ、彼の背後に立った。巨大な体は長身のアレクスさえも包み隠さんばかりだ。
「お前を置いてはいけない。アレクス。私についてきてくれるか」
 アレクスは振り向きウルフマンの豊かな胸にしがみついた。
「無論だとも。ウルフ。きみなしでは生きていけない」
ウルフマンはアレクスの顎を上向かせその唇にキスをした。
ぼくはここで少しリアルに戻る。狼と人間のキスシーンは少しむずいや。でもどうせディープなキスなんてまだ描けないからいいか。
ぼくの机の上に置いてあるノートにはぼくがデザインしたウルフマンとアレクスが描かれている。色々な資料を参考にして好きなマンガからも影響を受けまくっているがそれでもぼくが作り出した彼らである。アレクスはぼくがこうなりたい、と思う姿。実際のぼくを一五センチ引き延ばし体中のパーツを交換してみた。彼が愛しているのは彼の初めての相手であったウルフマンだけだ。美貌のアレクスは行く先々で様々な男や女から誘惑われるが決して心を動かされたりはしない。
でも、とぼくは少し考える。あんまり一途だとつまんないからちょっとしたかき混ぜ役を作ってやきもきさせるのもいいかもしれない。そしてそんなアレクスを愛し愛されているのが狼と人間の合体生物、ウルフマンだ。つまり彼はぼく自身の恋人、ぼくのエロティシズムの対象、ぼくは毎晩(いや、学校の行き帰りも含め、あらゆる妄想の時間)彼に抱かれる。
 やがて夜の帳が降り、ウルフマンはアレクスと夕食を共にした後、彼を寝所へと誘う。
「今宵はこの城での最後の夜だ。暫く旅路につく。ゆっくりお前を味わい、お前を喜ばせたい」
広い部屋は暖炉が焚かれ、また蝋燭の灯火がアレクスの美しい裸体を浮き上がらせる。白い肌は薄く染まり、屹立したものがウルフマンの欲望をさらに掻き立てた。ウルフマンの体を覆っていた黒衣装が足下に落ちる。力強い両脚も腰も胸も肩も腕も怖ろしいほど厚い筋肉と剛毛で覆われている。そして彼の黒々と鈍く光るペニスの先はすでに滴っている。彼はその毛深い腕に白きアレクスを抱きしめ長い舌で彼を愛撫した。熱いほどの舌が触れアレクスは美しい体を悶えさせる。やがてウルフマンは己の凶器をアレクスの中に深々と埋めていった。
ぼくはもう描いた彼を見る必要もない。ぼくは夢想の中でアレクスになり人狼に抱かれる。ぼくは自分のペニスをしこる。彼がぼくを貫き、ぼくは果てた。
 ああ、愛してるよ。ぼくのウルフ。確かに彼はぼくの想像の産物だけど、リアル世界ともつながってはいる。出会った人でぼくが「あ、ウルフマンだ」とぼくが思えばその人の要素が加わる。今一番濃厚なのが同じクラスの奥上達朗。彼とぼくとはまったく接点がない。あるとすれば今日の帰り、彼が轢かれそうになったぼくの腕をぎゅっと掴んだ、あの瞬間だ。ぼくが見つけたウルフマンだけあっても少しで腕がもげるかと思った。彼がウルフマンだというのは彼の第一印象で決めたことだったが、間違いじゃなかった。
 ぼくはすでに起動していたパソコンに向かった。途中まで描いていたウルフマンとアレクスのハグシーンを完成させ、ついでブログの管理場面を開けてイラストをアップし、簡単な説明文をつけた。その後、奥上に頼まれたウルフマンをプリントアウトした。明日持って行ってみよう。でもマジだったんだろうか。その時つい言ってみただけの話かもいしれないのだ。
 パソコンは高一の時、安価なものを親にねだって買ってもらった。ブログはその当時から始めていて、自分の唯一の特技である(と言うのもおこがましいのだが)イラストをアップするのがぼくの使命のようになっている。最初辺りの絵はとても特技とは言い難い稚拙なもので見ると即刻消去したくなるが成長過程を見るために敢えて残している。そのくせ、自分好みの筋肉男と美少年をチューさせているのだ。恥。恥。しかも美少年は自分のつもりだ。毎日研鑽しているので今は何とか人目にさらしてもいいのでは、と思えるようになって来た。
 ブログタイトルは「ぼくのウルフマン・ワールド」説明として「ゲイな高校生のぼくが大好きなウルフマン(人狼)を描いていくブログです」というものを付記している。よく意味が判らない気もする(笑)半年経った頃から簡単なものではあるけど、マンガ形式にしてストーリー仕立てで見せるカテゴリを増やした。ウルフマンとアレクスが様々なシチュエーションで恋人になり物語られていくのだ。大変な作業だがやり甲斐がある。学校の勉強なんてそっちのけで没頭することもままある。
作品名:ぼくのウルフマン 作家名:がお