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ぼくのウルフマン 別バージョン

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広い部屋は暖炉が焚かれ、また蝋燭の灯火がアレクスの美しい裸体を浮き上がらせる。白い肌は酒の酔いと恥じらいで薄く染まり、彼の屹立したものがウルフマンの欲望をさらに掻き立てた。ウルフマンの体を覆っていた黒衣装が足下に落ちる。力強い両脚も腰も胸も肩も腕も怖ろしいほど厚い筋肉と剛毛で覆われている。そして彼の黒々と鈍く光るペニスの先はすでに滴っている。彼はその毛深い腕に白きアレクスを抱きしめ長い舌で彼を愛撫した。熱いほどの舌が触れアレクスは美しい体を悶えさせる。やがてウルフマンは己の凶器をアレクスの中に深々と埋めていった。
 そしてリアルのぼくはアレクスと自分を交錯させながらウルフマンに抱かれる。なんて気持ちいいんだろう。力強い腕に包まれぼくは闇の中に墜ちていく。

 朝は憂鬱な時間だ。何より寝起きが悪くて機嫌も悪い。最もファンタジックな夜の魔法が醒め苦手なリアルと向き合わねばならない。ぼくはリアルママが用意してくれたトーストを囓りコーヒーで飲み込んでぼおおとまだ寝惚けている頭で外へ出る。ついまたファンタジーワールドへ突入しそうになり、昨日の出来事を思い出して自重した。いかん、いかん。いくらリアルが希薄でもまじでこの体を損傷したらやばいからなあ。
 教室に入り、暫し睡眠。やがて煩く机や椅子を動かす音が聞こえ、ぼくは目を開けた。
教壇には担任教師ではなく副担任と見知らぬ男、いや、昨日、俺を事故から救ってくれたウルフマンが立っていた。どういうことなんだ?思いがけない出来事を把握仕切れない。そう言えばあの人は「世話になる」とか言ってたっけ。この学校に来るということだったのか。しかも教師として?
長身というより特大のウルフマンの横で小柄な副担任が説明を始める。
「おはよう。担任の山田先生が急病で暫く休まれることになってしまった。今日から代理で来てくれることになった奥上先生だ」
「初めまして。奥上達朗です。こんなでかい体ですが国語を担当します。途中からで判らないことも多いのでみんな、よろしく頼むからな」
おっかない外見の教師が軽い調子で話したのであちこちで安堵の笑いが起こる。でかくてちょっと強面だが、気さくそうだということでクラスの受けはまあまあよかったみたいで何故か俺もほっとした。
 奥上先生は一重瞼だけどかなり印象的なもの凄い目力を持つ眼差しをクラスの隅々に送った。そしてぼくを見つけ、お、という顔をした。どうやら覚えてもらったようだ。ぼくの心臓がとくんとくんと波打っている。複雑な心境だ。あの事故未遂の時に夢想していたことが現実になった。まあ、本当の狼の顔はしていないが、もしかしたら狼男か、と思えるほどの迫力ある顔だ。しかも名前が奥上達朗、だなんて。出来過ぎじゃないか。
 ぼくは黒板の前に立つ奥上達朗の顔を眺めた。裂けるようにでかい口だな。ウルフマンに相応しい口だ。人間の顔でもなかなかの二枚目だ。胸も分厚いし、ちらりと見える腕も毛深い気がする。ぼくはついでに妄想する。あそこもでかいかな。なにしろ、ウルフマンの特徴はアレがめちゃ強いってことなんで。うん、まあこの先生も弱そうには見えないな。

 夜はぼくの国。ぼくはどこまでも飛んでいける。今夜はウルフマンとアレクスのエロシーンを絵にしてみた。昼間のリアル先生の残像も手伝ってなかなか迫力ある絵が描けたと自己満足する。気分も高揚してちょいと一休みしてしこしこ開始する。
ぼくはもう描いた彼を見る必要もない。ぼくは夢想の中でアレクスになり人狼に抱かれる。ぼくは自分のペニスをしこる。彼がぼくを貫き、ぼくは果てた。これはほぼ毎晩の儀式だが、今夜はいつもと少し違う。ウルフマンのイメージに奥上達朗の要素が加わったのだ。今まで頭の中にだけ存在していた彼が血肉を持った生命体として感じられる。
 ああ、愛してるよ。ぼくのウルフ。確かに彼はぼくの想像の産物だけど、リアル世界ともつながってはいる。出会った人で「あ、ウルフマンだ」とぼくが思えばその人の要素が加わる。今一番濃厚なのが昨日出会って今日は教師となった奥上達朗。彼とぼくとはまだまったく接点がない。あるとすれば昨日の帰り、彼が轢かれそうになったぼくの腕をぎゅっと掴んだ、あの瞬間だ。ぼくが見つけたウルフマンだけあっても少しで腕がもげるかと思った。彼がウルフマンだというのは彼の第一印象で決めたことだ。

 ことが終わるとぼくはすでに起動していたパソコンに向かった。途中まで描いていたウルフマンとアレクスのハグシーンをパソコン内で完成させ、ついでブログの管理場面を開けてイラストをアップし、簡単な説明文をつけた。パソコンは高一の時、安価なものを親にねだって買ってもらった。ブログはその当時から始めていて、自分の唯一の特技である(と言うのもおこがましいのだが)イラストをアップするのがぼくの使命のようになっている。最初辺りの絵はとても特技とは言い難い稚拙なもので見ると即刻消去したくなるが成長過程を見るために敢えて残している。そのくせ、自分好みの筋肉男と筋肉少年をチューさせているのだ。恥。恥。しかも筋肉少年は自分のつもりだ。下手は下手なりに毎日描いているので今は何とか人目にさらしてもいいのでは、と思えるようになって来た。