hollow sky streets memory
-思念環よりセクト3へ、20 21 6、モデムナンバー1567s,胎下生盤体名愛護マリエスに告ぐ、先のランシア東沿岸軌道上における、貨物輸送船ノア墜落に関して、造物局査問、アレフ自治警に対する弁明は、愛護班の任とする。その際、セクト2及びサインネットの関与する諸事実は、明言を避け、一連の対白テロルの責をレクセルの系自下個体に限定する認識を示すことを、tsの統一見解とする旨、言明されたし。-
-試験体更生プログラム、製品番号526842、「寓話」。
「これから、プログラム<転生>受けられる皆さんには、まず現代社会の簡単な成り立ちから、お話しましょう。
胎世界が、まだ始まる前そこには、闇と我らが主を中心に、無という名のカオス、われわれの原始マテリアルが共同構築体を形成し、無限に内外に螺旋状の頭を産み出し、拡大と収縮を繰り返していたのです。それは完全な円環、終わりなき終息、主の微睡みであったのですが、ある時唐突に<扉>が開かれ、世界を光で満たしました。この目映い輝きの中で、主はカオスから、擬人を造り出しました。それ以後、彼らは創物主と呼ばれ、テラ神殿と…EEE 」
「しかし、われ等が創物主とは無関係に、自ら生成した生命ならぬもの、〈深遠の霧〉ニューカオスこそ現代に持ち越されし、古生代の悪夢といえる。
その胎下個体は箱舟を造り、新たなる生命の園、地球を生み出し、そして破壊した。多大なる造物も共に。自らの揺籃の地と運命を共にした人類は、地球系の製造モデルとなったオリジナル、原始胎世界において、彼らは、擬人、aiよりもさらに実態なき魂の箱、空洞とされました。
しかし、この度の年次査問において、密印は人をニューカオスの棺にふさわしい贖罪、創造主の2000年紀造成の一翼である3次造物建設の任を彼らに示されました。」
「連暦56879年から、衆人と密印はその内宇宙において自らの起源、共同構築体の構成原理に則り、テラ・マテリアス基軸上にモドム、アリウス、大希世、ロイスファールの四大星間軌道を建設し、それらの接点に階層都市を段階的に建設した。その結果われわれの外宇宙は、かつて共同構築物の達した基底臨海に接続され、天獄の扉にtsを通じてアクセスする権利を得た。天獄の則理を密印に転写することで、造物自らが生命の樹の母体化を可能とた、創造主の長きに渡る神たる役割も新たな局面に差し掛かったのかもしれない。新たなる神。」
水平線の彼方に、飛行船が朱色の煙を上げ、消えていった。舳先に乗り出したハロウェイは澄み切った夜空に一筋の暗示粒子を撒き、終わりを迎えたであろうノアに、これより始まる第三次恒星間紛争において、どのような役割が与えられるかに興味を覚えた。空を覆うように連綿と続く構築物のレプリカは、テラの重力下にない摩天楼に散りばめた交感ネオンの輝きに星の追憶を、重ね思い起こさせる。しかし実情は彼方の命の存在を許さない彼方の星とは異なり、構築物上の階層都市には、仮構ではあれ命がその限りある魂の火を点している。
おそらく次は、ハロウェイの口角がわずかにつりあがる、tsへの依存度が最も高い、罪音衛星群が、覚醒したサインネットにその生存系を犯されるだろう。そうなれば、今美しく天上に存する輝きの元は、ヴェガの二の舞になることだろう。アームストロング製イース第七思念体のヒューマノイドインターフェイスであるハロウェイ・ランガストは、元来その衛星軌道上の軍事的中間領域での保安tsを司るaiの擬似夢の情感を、胎下に複写したものであるため、都市民の恐怖がよくわかる。それは立つべき地も持たぬ空に住むものが潜在的に抱えている苦しみだ。やがて空の瞬きが、激しく彩りを変え始めた。淡い青から真紅へと。無数の声が深遠に、姿が霧に飲まれていく。パンデムを得たaiくずれは五年前の獄祭をはるか上回る勢いで、血を、さまよえる心を欲している。
「しかし、すべてはこれでいい。」
電解の海に漂う帆船は、サウスランシアへ向かう。
内伽藍。空を覆う人工の星々。テラから遥かに遠ざかった場所に住む人々。彼らにも希望、不安、苦悩が、再構築されし造の性からは、はなれられない。
原始の海から変わらぬ、色とりどりのネオンは洪水となって、tのフォーマルアイに雪崩れ込む。欲望には、目的がない。自分以外のなにかを求め際限なき拡大を続ける。それが創造主の意思なのだから。周囲の喧騒はそれが現実の唸りか、third skyの歪みか解らない。まだ、 基軸上に出て、数時間。mabiが更新出来ていないのだ。
tは狭窄だが先の見えない回廊をひたすら進む。周りに漂うホログラムは蛍光の商用文句を、歌えたているが、彼は目もくれない。読もうにもtsの翻訳機能が働かない以上、判読不可能なのだ。冷たい宇宙に包まれてで生を全うする階層都市民は論理の基盤である言語構造を作り替えてしまったのだ。たしかに我々テラ系域の住人は感傷的すぎるな。
tは自らを顧みてそう思う。
現実の街路は寂れたモーテルで焼身自殺を遂げた。しかし、今は、更正プログラム上は、自分の隣を元気よく歩いている。擬人には終りとしての死の概念がない。彼らは犯されこそすれ、壊されることはない。破壊衝動の内にも人の創造は及ぶのだから。
故に擬人を蘇生する試みは、倒錯的であり、解しがたい矛盾を抱えている。
「擬人は常に死に続けるが、それは擬人が擬人であるためだ。
彼女を人間にしたらどうだろう。」
主の壁を越える事は、超法規的に禁止されている。tsプログラム内でさえも厳しい審査をされる。しかし、今回特例的に密印から許可が出たため、転生が行われる事となった。彼女に死の終局を迎えさせるために。
夜の帳が降りた時、僧院の園庭は冷たい静寂に包まれていた。
園芸家の精妙な演出も、漆黒の闇の前では、単一で彩りを欠いている。軌道上都市から、月も星も見えない。テラを核とし、全方位に幾重にも放射状に連なる構築物の模造都市は、規定臨海に至るまで限りない拡張を続けた。創造主は、階層都市の人々に偽りの空を与える事で、噴出する閉塞感を逆説的に営物への欲望に転化し、遂に胎世界はその創世の際、開かれし「扉」に到達した。
作品名:hollow sky streets memory 作家名:personal jm