野村は恋をしている
マリコはうなずいた。
「君がいるからだ」
「ねえ、聞いていい?」
「何を?」
「そういうことを言って、自分で照れ臭くない?」
「照れ臭い」と野村は正直に答えた。
「正直でよろしい」
「君は酔っている?」
「酔っていないわよ」とマリコは首を振った。
「休もうか?」
そこはホテルの前だった。野村は立ち止まった。しばらくしてまた歩みだした。マリコは黙ってついて行った。
「私のことが好きなの?」とマリコは立ち止まった。
「好きだよ」と野村は躊躇わず答えた。
「どうして?」
「君がとてもいい匂いがするから。雄と雌は匂いで惹かれあうんだよ」
「動物みたい」とマリコは笑った。
野村は「人間も動物だろ」とマリコの手を引いて歩き始めた。
手を引きながら、野村は、これは恋だろうか? と自問した。答えは出なかったが、胸が妙に高鳴った。それが、その答えであると野村は納得した。