降誕祭の夜
「じゃ、ヒロシ・・パパ達は行くからな」
「お前はまだまだ順番じゃないから、ここでお別れは寂しいけど・・」
「向こうに来たらまた会えるから、それまで頑張れよ!」
「うん、行っちゃうんだね、パパ・・ママ!」
「ヒロシ、有難う。ママ嬉しかった・・・・」
「病気の時でも、ヒロシは優しかったわね」
「でもママの病気のせいで仲違いしちゃったんだから、そろそろ仲直りしてね?久美子さんと」
「え?うん、でも・・もうダメじゃないかな・・」
「ヒロシ、お前は父親なんだよ?親子の縁も夫婦の縁も、そう簡単に切れやしないから」
「そう・・なのかな」
「そうさ、パパはいつまで経ってもヒロシのパパだろ?」
「そうだね」
「じゃ、そろそろ行くから・・元気でな?!」
うん・・と私は笑顔で2人を見送ろうとしたが無理だった。
堪えていたはずの涙が堰を切った様に溢れだして、私は2人にすがりついて泣きじゃくりながら言った。
「行かないでよ、ねえ!ずっとここで暮らそう?ボクの家族も呼んでさ、みんなで・・昔みたいにさ!」
私は、完全に10歳の子供に戻っていた。
「ヒロシ・・・」
「泣かないで?ヒロシ。ママはこうしてちゃんとお別れ言えるなんて、嬉しいのよ?」
母は、泣きじゃくる私を抱きしめてくれた。
「ママ・・・」
「だから、笑顔で見送ってね?ママとパパを」
「パパ、ママ・・・」
2人の温もりを感じて、私は泣き止んだ。
「・・うん」
「行ってらっしゃい・・元気でね!っていうのは変か」
「じゃ、待っててね?向こうで」
「はは、慌てて来る事はないからな?ヒロシ」
「そうよ、ママみたいに順番になったら・・ね!」
「うん、分かった、頑張るよ」
じゃあね、ヒロシ、元気でね・・・と手を振る両親の姿が段々と薄くなっていき、とうとう目の前から消えた。
「ふ~、行っちゃった・・・」
右隣の布団には、微笑みながら永い眠りについた母がいて、左の布団からは風呂上がりにパパが付けたヘアトニックがほんの少し・・香っていた。
窓の外が少しずつ明るくなってきて、私はまだ温もりの残る母の頬に触って言った。
「良かったね、ママ・・パパが迎えに来てくれて」
「メリークリスマス、行ってらっしゃい・・・」
完