マネジ!
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■つかまる
社長からメールが来た。無駄を嫌うあのひとらしい、簡潔過ぎるくらいのメールだ。「明日、社員その②の迎えはいらない」。休みか? そんなはずはない。シフトの調整をしているのは自分だし、そもそも社長が急な休みを認めるはずがない。じゃあ、社員その②に別の足ができたのか? そんなはずはない、彼女は確かに美人だが、それ以上に男っ気がない。つまるところ、導き出される答えは一つ。今日、彼女は社長の家に泊まり、社長の車で出勤するのだ。その間、散々社長の武勇伝を聞かされることとなるだろう。俺はこれを「つかまった」のだという。
■大型連休
マネージャーが務めるエステサロンは、敏腕女社長の采配により、首都圏を中心に五店舗も展開している。そのうち、社員その②が中心となって営業するのは某ホテルにテナントとして入っているエステサロンだ。
「はい、おつかれさま」
時刻は二十四時、閉店の時間である。連休で宿泊客は飽和状態、それでなくとも天然温泉で一儲けしているこのホテルは、ありがたいことにエステサロンの方も大盛況。
「マジ疲れた……」
「売上げの方は俺が処理しとくから、早いとこ日誌つけて」
「とりあえず飯食っていいかな」
「いや日誌」
「飯」
俺の承諾も得ずに、接客用のソファーに体を預けて全身で疲労困憊を表現していた社員その②はすこぶる億劫そうに立ち上がる。そうして冷蔵庫から取り出してきたのは、全く手の付いていない弁当だった。
「出勤してから何も食べてないんだよー」
「うお、売上げ三ケタかー頑張ったな」
「ご飯食べる暇もなくお客さん入ってたからね」
お弁当を食事として楽しむ余裕は無く、とにかくカロリーを摂取するために白米をかきこむ社員その②に切なさを感じながら、売上げを丁寧に数え入金する。
「ここのところ暇だったから、体もなまってるんじゃないのか?」
「そうねー、これ以上忙しい時もあるけどしばらく暇だったから、体が暇の体になってるんだよね」
ペットボトルのお茶を一気に飲み干して、社員その②は言う。ものの数分で弁当箱は空になっていた。
「忙しい時はちょっとの時間でつまめるものくらい持ってくるようにしてたんだけどさー、いやあ舐めてたわ」
「ま、今日という日を乗り越えられたから良いんじゃないか? 早いとこここ閉めて、帰って休め」
「よっしゃあ~今日は長風呂しちゃうぜ」
そうしてこの日はサロンを後にしたわけだが、日誌を書いてないことに気付いたのは帰宅した後だった。
■カリカリ梅さん
出勤前の車内、眉毛を書き終わった社員その②はバッグからおもむろにカリカリ梅を取り出し、食べる。封を切られた包みは、使われていない灰皿に溜まっていった。既に溢れんばかりである。
「最近梅ばっか食べてるけど」
「いや……うん」
「なんか当たるの?」
お気づきかと思うが、社員その②はポイントや○○が貰える系シールを集めるのが好きである。
「こないだの連休の時さ、一日中何も食べてないって言ったけど、隙を見てこの梅食べたんだよね」
「へぇー」
そう言う間にも社員その②は新しい包みをあける。どんだけ。
「そしたらさ、めっっっっちゃ美味しかった……」
「ほう」
「だからお礼にしばらく買い続けてあげようかと」
「それは殊勝な心掛けだ」
社員その②が一番うれしいのは、自分が初回を担当したお客さんがリピーターとしてご来店なさった時であるという。
「でしょ? 空腹時じゃなくてもフツーに美味しいしね、このカリカリ梅」
「梅だけにうめーっとな」
ガッ(肩を殴られた音)。