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てっしゅう
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「忘れられない」 第五章 仁美の秘密

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「こんな時間に失礼と重々承知しておりますが、どうしても聞いていただきたい事がありまして・・・明日でも宜しいのですが、朝早い時間にお話出来ますでしょうか?」
「構いませんよ。ご出勤なさる前にお立ち寄りください。起きておりますから」
「ありがとうございます。では、7時ごろに伺わせて頂きます」

安田はそう伝えると、部屋に戻って行った。
何の話をしたかったのだろう。仁美と連絡が取れて詳しい事を知ったから、尋ねたい事が出来たのだろうか・・・
知っていることは隠さずに全部話そう、そう有紀は決めて眠りに就いた。6時前に目が覚めて、着替えを済ませ化粧も済ませて、呼び鈴が鳴るのを待っていた。朝日が差し込んでくる7時の時間になった。

7時を過ぎても安田は現われなかった。8時になってしまった。普段なら出勤する時間のはずだ。有紀はちょっと心配になっていた。自分から玄関を出て安田の部屋の方に歩いていった。まだ新聞が差さっていた。どうやら中に居る様子だ。少し考えたが、呼び鈴を押した。有紀は自分から訪ねてしまった。

出てこない・・・もう一度だけ押した。
出てこない・・・扉を叩こうかと思ったが、親戚や家族じゃないからそれは辞めた。
「どうされたのかしら・・・心配だわ。昨夜は元気だったからご病気っていう事でもないだろうし。そうだ、仁美さんに電話をしてみよう」有紀は急いで戻って、携帯から電話をした。

「あっ、仁美さん。有紀です、おはようございます。急いで確かめたいことがあるの。安田さんに電話をしてあげてくれない。今呼び鈴を押したんだけど出ないし、留守でもなさそうなの。昨日夜訪ねてきて、今朝話をしようって約束して行かれたのよ。来ないなんておかしいって思うから」
「有紀さん・・・ごめんなさい。昨日あなたに電話してからしばらくして安田から連絡があったの。それで・・・少し話しをして、私興奮しちゃって・・・裕美が自分で命を絶ったこと話してしまったの。あなたのせいだって・・・言ってしまった」
「仁美さん。そうだったのね・・・安田さんきっとショックで臥せっておられるかも知れない。電話して確かめてくれない?心配なの」
「あなたが?心配しているの・・・そう、わかった。電話してみるから、後でまた知らせます」

有紀は仁美がきっと安田を責めたのだろうと考えた。どんな事情で仁美と別れたのか知らないが、安田が可哀想だと思っていた。それに、昨日訪ねてきたのは裕美のこととは違うような気がしている。そうなら、今朝に延ばしたりはしなかったであろう。じゃ、話したかったことってなんだったんだろう・・・名古屋から転勤した、それも岡崎からだ。何か気になることでも有紀に伝えたかったのであろうか。

有紀は解らなくなっていた。一度に二つのことが自分と安田との間に係わってきたからだ。じっとしていられなくて、外へ出た。安田の玄関のほうを見ながら、廊下の手すりにもたれかかって、時間をつぶしていた。

程なく安田が扉を開けて出て来た。外に立っている有紀を見つけて、頭を下げた。
「申し訳ありません。昨日は辛い事がありまして、眠れなくて今朝方うとうとしてしまいました。あなたとの約束も守れなくて情けないです。仕事も今日は休んでしまいました」安田の気落ちした声に有紀は傍に寄って励ました。

「安田さん、私のことはいいのよ。気にしないで、話はいつでも構いませんから。それより大丈夫ですか?裕美さんのことお聞きになったのですね?」
「有紀さん・・・ご存知だったのですね、何もかも・・・」
「ええ、仁美さんから聞かれましたの?」
「あいつ・・・自分のしたことは棚に上げて、俺ばかりを責めて・・・裕美のことさえも黙っているなんて、もうなんだか虚しくて・・・裕美が可哀相」
「もしよろしければ、私のお部屋でお話し聞かせていただけませんか・・・ここではなんでしょうから」
「そうですね・・・私の部屋でも構いませんが、そちらにお邪魔させていただきます」

安田は中に入ると、深くため息をついて自分を落ち着かせようとしていた。有紀はコーヒーを点てて、差し出した。
「ありがとう、いい香りだ・・・気持ちが落ち着きます。美味しい!お上手ですね、煎れ方が」
「ありがとう、お褒めいただいて。落ち着かれましたか?」
「少しは・・・です。何からお話したらいいのか・・・」
「よろしければ、ずっと疑問に感じておりました家出のところから伺えますか?」
「そうですね、仁美からの一方的な話しか聞かれていないようですから、話して置かないといけませんね」
「仁美さんは、あなたが家庭を顧みなかったからと言っていました。そうでしたの?」
「家庭をですか・・・仕事が忙しくなっていたのは事実ですよ。裕美の進学のこともあったし、住宅のことも考えていたから頑張るのは当然でしょう。休みが無かったと言うようなことはありませんでした」
「では、なぜ仁美さんに不満が溜まったのかしら・・・」

有紀は疑問を投げかけた。

安田は少し間を空けて有紀に話し始めた。

「有紀さん、あいつから何も聞いていないのですか?」
「なんでしょう?あなたが仁美さんを捨てて出て行ったと聞いていますが・・・」
「出て行ったのは、事実です。女性が居たとか言っているのでしょうが、そんなことはありません。あの仕事の忙しさの中、そんなことする余裕なんて、無かったですからね。裕美のこと考えて言わずに私のほうから出て行ったのです」
「どうして?それほどの理由があったのですか?」
「聞いていないのですね?」
「ええ、あなたが出て行ったとしか・・・」

また少し黙ってしまった。安田はきっと何か言いたいのだろうが迷っているのだろうと思った。それは仁美に気を遣っての事なのか、仁美と仲良くしている自分に気を遣っているのか、分からないが有紀にはそう見えた。

「有紀さん、この話は絶対に仁美には言わないで下さい」
「はい、分かりました。心の中にしまっておきます」
「ありがとう・・・実は見てしまったんです。あいつが他の男と逢っているところを。ちら見でしたが仲良くしているだろう気配を感じました。もちろん、その場で問い詰めるようなことはしませんでしたが、私には深い関係にあると確信しました」
「本当ですか・・・仁美さんそんなことをする人じゃないと思っていましたが、確かなのですね?本人に聞いてみたのですか?」
「仁美が可哀相だと思って言いませんでした。私が仕事に明け暮れていたので寂しかったのでしょうね。そのことは自分なりに反省しました。でも、許せることではありませんから、出て行った後で、メールで知らせました」
「仁美さん、なんて返事しましたの?」
「どうして、そのときに言ってくれなかったの。私のこと好きじゃなくなってしまったの・・・って返事ありました」
「ごめんなさいより、安田さんの無関心が気に触ったのね。なんだか分かるわ。悪いのは仁美さんだけど・・・」

安田は悪くないのかも知れない。それ以上に、仁美のそのときの寂しさが、有紀には伝わってきた。