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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「神のいたずら」 第十一章 運命の前夜

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麻美の笑顔を見ていると近くて遠い自分の記憶が蘇ってくる。幼かった身体を大人の心が支配して、どうしていいのか解からなかった日々・・・中学に始めて登校して好きになった達也との思い出・・・揺れ動く女としての気持ちと冷静に見ている隼人としての気持ちが交錯し時に情緒不安になっていたあの頃。麻美とは事情が違うが、同じような年齢の不安定な心が碧としての三年間で高橋隼人には理解できた。

「あっ!お兄ちゃん出てきた。お兄ちゃん!こっち来て」
「麻美なんでここにいるんだ?」
「もう終わった頃だと思って下に降りてきたの」
「何言ってるんだ!変なこと言うなよ!」
「お姉ちゃんに聞いたよ・・・照れなくていいよ、麻美はもう大人だから」
「碧、何話したんだ?まさか・・・」
「言ってないわよ、何も。隼人さんとこれからもずっと仲良くするからって言っただけ」
「麻美!お前勝手に想像して話したな!こいつめ」
「痛いよう!何でつねるのよ、いいじゃん、好き同士なんだもの。麻美だって彼が出来たらそうしたいし」
「何言ってるんだ!俺が許さんぞ、そんなことしたら、解かってるな」

麻美は逃げるように碧の傍に来た。

「隼人さん、怒らないで聞いてあげてよ。麻美ちゃんもう大人になろうとしているのよ。碧がお姉ちゃんになるからって約束したから、これからは話し相手になるわ」
「無理してるんじゃないのか?麻美が無理に頼んだんじゃないのか?」
「いいのよ、例えそうだとしても。私だって12歳の時は不安だらけだった。姉が良い相談相手になってくれたから助かったけど、麻美ちゃんはお母さんとは話しづらいって聞いたから、私がお姉ちゃん代わりになってあげたいの」
「母さんはそのこと気にしてたよ。この頃よそよそしく感じるって。遠慮なんかしなくていいんだぞ!麻美。本当の母さんなんだから、そう思ってないのか?」
「お兄ちゃん・・・なんで今そんな話するの!麻美はお姉ちゃんになって欲しいって言っただけだよ。お兄ちゃんの彼女なんだから・・・お姉ちゃんじゃないの?」
「隼人さん、結論を急いではダメ・・・麻美ちゃんの心が自然に開くまで家族で温かく見守ってあげないとダメだよ。そうして・・・碧は本当にお姉ちゃんになりたいって思うから」
「碧・・・お前は大人だなあ。時々ビックリするような事を言うな。麻美、悪かったな。お姉ちゃんが出来て嬉しいだろう?」
「うん、何でも話せるから助かる。女しか解からない事ってあるのよ。ね、お姉ちゃん?」
「そうね、たとえば何?」
「たとえば・・・身体のこととか、彼のこととか、いっぱい」
「なんか心配になるような話ばかりだな。碧頼むよ、厳しくしてやってよ」
「大丈夫よ、任せて」

玄関でノックする音が聞こえた。母親が帰ってきたようだ。碧は少し緊張した。鍵を開けて入ってきた母親に挨拶をした。
「小野碧です。お邪魔させて頂いております」
「ハイ・・・小野さん、あの小野さん?」
「そうです。こんな時間まですみません。ご挨拶だけさせて頂いて帰ろうと思っていましたので」
「そうだったの・・・ご丁寧にありがとう。小野さんが隼人と・・・彼女が出来たとは聞いておりましたが、まさか小野さんだったとは驚きました。息子で構わないのですか?」
「お母様・・・碧は本当に好きになれる男性と巡り逢えました。感謝するのは私のほうです」
「小野さん・・・」もう、言葉が出なかった。

母親は息子の起した事件の被害者であり事の発端にもなった碧を信じられない目で見ていた。隼人は母親にとって最愛の息子であり、どんなことをやっていても信じられる唯一の存在でもあった。麻美との仲がギクシャクしてきた今に至っては立ち直って働いている隼人は頼もしくさえ感じられていた。

「碧さん、あなたのお気持ちは嬉しいけど、ご両親はきっと反対されるわよ。私には反対する理由が無いけど、隼人にはもう二度と惨めな思いはさせたくないの。解かるかしら?」
「お母様のお気持ちは良く解かります。正直言いまして、母は反対しています。父と姉は理解してくれているので嬉しいのですが、母親とは息子や娘を一番心配するようです。碧と隼人さんが恥ずかしくないようなお付き合いを続ければ、きっと母も理解してくれると思います。許していただけませんか・・・」
「あなたはしっかりとしておられる。私が心配するような事は無いと思えますが、本当に隼人でいいんですか?」
「はい。麻美ちゃんにもお姉ちゃんになるからと言いました。それもお許し下さい」
「お姉ちゃんに?麻美のですか・・・そんな事までお願いしていいの?」
「約束したんです。お誕生日がもう直ぐなんですよね。聞きました。お母様のご都合が宜しければ、15日の土曜日に遊びに来させて下さい。隼人さんの都合もあるでしょうが、どうでしょうか?」
「ええ、是非そうして・・・その日は仕事休ませてもらって、麻美と二人で食事の支度しますのでゆっくりとしていって下さい」
「ねえ?お姉ちゃん、その日は泊まっていってよ。麻美と一緒に寝よう?」
「そう出来るといいわね・・・考えておくわ」
「麻美ったら・・・余程碧さんのことが気に入ったのね。私が気遣えないものですから、寂しい思いをさせていたのでしょうね。よかったらそうして行って下さい」
「俺からも頼むよ。みんなでゆっくり食事して、話したいから」
「楽しいでしょうね。母を口説かなきゃ・・・大変だ、ハハハ・・・」

碧にとって隼人と過ごす初めての夜になりそうな予感がした。
強く反対していた由紀恵も秀之に諭されて、泊まりで遊びに行くことを渋々承知した。

5月15日土曜日、高林家での楽しい時間が碧にとって最後の・・・いや正しくは高橋隼人のいる碧にとって、最後の時間となった。