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独立都市リヴィラ ep.1 迷い込んだ子供

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 ルシエラの体が地面に叩きつけられる。それよりも、イツキが彼女のもとにたどり着くのが先だった。間一髪で、ルシエラはイツキの腕の中へと収まる。だが、全体の力の動きを止めることができず、イツキはルシエラを抱えたまま、地面へと叩きつけられた。高い場所から落ちた少女の体は、実際の重量よりもはるかに重い一撃となって、イツキの体を襲う。

「いっ……」

 ルシエラを全身で庇ったまま、地に転がるイツキは思わずうめき声をもらした。いくら体を鍛えていようと、防具を身にまとっていようと痛いものは痛い。

 それでも、そのことを悟られないようにイツキはルシエラを抱えたまま起き上がった。

「ルシエラ、怪我は?」

「あ、……え、だ、大丈夫です……」

 身を挺した甲斐あってか、ルシエラの体に特に異常はなさそうだ。

 イツキはそれに安堵し、息を吐く。

「ルシエラ!!……っ」

 ユリウスが二人の元へ走り寄ってくる。枝に挟まれた時に体を痛めているためか、顔が痛みで歪んでいる。

「ルシエラ、無事か?」

「うん、大丈夫」

 心配するユリウスに、ルシエラが安心させるように彼のもとへと駆け寄った。

「助けて、もらったから……」

「…………」

 ルシエラの言葉に、ユリウスが複雑そうな表情をした。

 唇をぎゅっと噛んだその顔で、彼はイツキのほう見る。その視線をイツキは真っ向から迎えた。二人の視線が真っ直ぐに交差する。

「あんたは……何がしたいんだ」

 唇から押し出された言葉が、イツキの耳に届く。イツキはそれをしっかりと聞いていた。

 ユリウスの隣にいるルシエラが、不安そうな顔をして二人を交互に見る。

「おれたち、半獣人は……不吉で、不幸を呼ぶ存在なんだ! そんなの助ける必要なんて……ないだろっ!」

叫ぶような少年の声。押し止められなかった涙が目の端から順に溢れ出る。水滴が頬を伝い、地面に落ちた。

「ユリウス……」

 ルシエラも同じように泣きそうな顔をして、彼の様子を見守る。

 イツキが静かに二人のもとへと近寄る。

それと同時に後退りしようとするユリウスの腕を、ルシエラが掴んだ。ユリウスは驚いた顔で、彼女の方を見る。

二人のもとへとたどり着いたイツキは、二人をしっかりと腕の中へと引き寄せた。心ない人々の言葉で傷ついた子供の涙が、服を濡らしていく。

「そんなわけ、ないだろう」

 イツキがあやすようにユリウスの頭をなでる。どうすることもできず彼はイツキの腕の中でじっとしていた。

「お前たちが不幸を呼ぶなんてそんなことあるわけがないんだ」

 イツキが抱きしめる二人の肩はとても小さい。どこをどう見ても、ふつうの子供の体だ。

「お前たちはただの、子供だ。だから俺は、何があってもお前たちを助けるよ」

 子供が傷つくところはあまり見たくない。

 イツキはそう言って、ユリウスとルシエラの、二人の顔を見た。

「もう大丈夫だ」

 その言葉を合図に、二人はその場で勢いよく泣き出した。





  ◆



 

 ユリウスとルシエラが落ち着いてから、イツキたちは無事リヴィラの街へと戻った。あたりはもうすっかり真っ暗になっており、家々には明かりが灯っている。

 イツキを挟むように歩く二人の顔に、もう怯えはない。その様子を見てイツキはうれしく思った。

 詰め所まで戻ると、心配していたクリフたちに出迎えられた。二、三ほど小言をもらうことになったが、それは仕方ない。

簡単にクリフに事情を報告したイツキは、二人を連れて詰所の一室に入った。

二人を椅子に座らせ、机の上にマグカップを並べる。秋風に当てられて冷えた体を温めるために、熱い牛乳がカップに注がれた。

そうして少し落ち着いてから、ユリウスとルシエラはイツキに事情を話し出した。

 二人が半獣人の双子で、予想通り生まれ故郷では禁忌として疎まれ続けていたこと。母親としても望んだ出産ではなかったため、奴隷商に売られ、その途中でなんとか逃げ出してきたこと。

 ジーンの話していた脱走した半獣人とはおそらく彼らのことだ。まさかここまで幼いとは思わなかったが。

 どこに行けばいいか分からない時に、たまたま飛び乗ったのがあの行商人の馬車だったと二人は語る。

「……そうか。話してくれてありがとな、二人とも」

 イツキが笑いかけると、二人はほっとしたような顔をする。

 しかし、それがすぐに暗い表情へとかわっていく。

「……なあ……おれたち、これからどうなる?」

 不安げにユリウスはイツキの顔を見る。ルシエラも言葉こそ出さないものの、同じような目を向けた。

 ――種族混血児は禁忌の子供。

 たしかにそういった信仰はある。そして、その信仰を信じるあまり、彼らを傷つける人はあまりにも多い。混血児として生まれた以上、そのことからは逃げることはできない。

「……二人はここがどうやってできたか知っているか?」

 イツキの突然の問いに、二人はそろって首を傾げる。その様子がおかしくて、イツキは笑った。

「この街はもともとな、種族混血の人々が独立するために作られた場所なんだよ」

 イツキの言葉に二人は目を丸くした。

「だから、この街でお前等を傷つける奴はいない。行くとこねえなら俺が面倒見てやる。どうせ男一人で寂しい生活してたしな」

 おどけたようにそう言えば、二人は呆けたようにイツキを見つめる。

「だいぶ遅れたが、リヴィラへようこそ。この街はお前等を歓迎するよ、ユリウス、ルシエラ」

 にっこりと、イツキは二人に笑いかける。

「ほんとうに……」

 呆然としていたルシエラがゆっくり口を開く。

「ほんとうにここにいていいの?」

 不安と期待が入り交じったような二人の視線。

 それに対してイツキは大きくうなずいた。

「もちろん」

 イツキが返事をしたとたん、二人は勢いよくイツキに飛びついた。

衝撃で二人の帽子がはずれ、獣の耳が見えるが、それを気にする必要はもうない。

 ぎゅっとしがみつく二人の姿を見て、イツキは優しく微笑む。

「後でちゃんとアベルハイドさんに謝りに行こうな。明日の朝に出るらしいからまだいるだろうし」

 二人の頭をなでながらイツキは言う。

「それで明日になったら、いろいろ買い物に行こう。生活に必要なもんそろえねえといけねえし、フールさんにも謝りに行こう」

 二人はイツキの腕の中で、大きくうなずいた。

イツキは自分の腕の中にある、二人分の体温をしっかりと感じ取った。

これから忙しくなりそうだ。

 そんなことを思いながらイツキは自分の腕の中で丸くなる彼らを見つめていた。





                             終