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3.再会(11/8) :夕陽菜


 俺の彼女は、数字の羅列を見ていると眠くなってくる病気にかかっているらしい。
 自宅でのいつもの勉強会中、教科が数学に移って十数分でいつものように眠たげになってきた彼女に三十分の休憩を告げると、待ってましたとばかりにクッション(彼女が家に頻繁に来るようになった頃に買った、彼女専用のクッションだ)を抱え、枕にすると次の瞬間には寝息と立て始めた。
 俺はいつものように、一人分のコーヒーと一人分のコーヒー牛乳を作り、部屋へ戻る。
 コーヒーを一口すすると、彼女の寝顔に目を向ける。
 と、その幸せそうな寝顔が急に歪んだかと思うと眉間にシワを寄せてうんうんと唸り始めた。
「おい、どうした?大丈夫か?ヒナ?」
 慌てて彼女の肩を揺すると、はっ、と彼女が飛び起きた。
「……え…あれ…なんでユウが…ここに…」
 寝ぼけ口調でそうつぶやく。
 徐々に眼の焦点があってきて、その目が俺を捉えたと思った瞬間、目尻から涙がこぼれ落ちた。
「なに?どうした?」
「……」
「黙ってたらわからないだろ?」
「……うん」
「言ってみ」
「……茶化さないで聞いてね」
「うん」
「夢にね、ユウが出てきたの」
「うん」
「でね、ユウが言うの、『久しぶり』、って」
「うん」
「なんかね、夢の中の私とユウは別れてて、久しぶりに再会したところだったみたいなの」
「うん」
「でね、お互いの近況とか話し合うんだけど、だんだん、ユウと別れた、ってことが、辛くなってきて…」
「うん」
「泣きそうになったところで起こされたんだけど、ユウの顔見たらなんか安心して結局泣いちゃった…子供みたいだね」
 そう言って自虐気味に微笑んでみせるヒナがたまらなく愛おしくなって、俺は思わず彼女を抱きしめていた。
「…ユウ…?」
「大丈夫。前にも言っただろ? 俺がヒナのこと好きじゃなくなるなんて絶対にないって。ヒナが別れたくなるまで別れないって。なにしろ俺が先に惚れたんだから」
「うん…うん」
 ぽんぽん、と彼女の頭を撫ぜる。
「だから、無理に泣き止まなくていい。俺はここにいるから」
「……りがと…」
 ああ、俺は本当にこいつのことが好きなんだな、とか他人事のように思いながら。
 俺は、彼女の涙が止まるまで彼女を離すことはなかった。