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37.メトロポリス(12/12) :ギリヴ


 かつてこの世界には、命を造り出せる生き物が住んでいた。
 彼らと、造り出された命たちは、至って平和に暮らしていた。
 あるとき、異変が起こり、彼らと彼らの文明はほんの少しを残して消え去った。
 それ以来、この世界は造られた命のものになったのだ。

 おとぎ話のように荒唐無稽なこの話は、それでもれっきとした事実なのだそうだ。
 だそうだ、というのは、僕はこれを歴史の知識としてしか知らないからなのだが。
 久々に帰ってきた双葉のお師匠様は、その足で僕たちを廃墟探索へと連れ出した。
 曰く。
「キミたちの知らないこの世界のこと、見せてあげたくなったんだ」
 連れてこられたのは、“彼ら”がいた頃には首都として栄えていたとされる場所。
 今はただの草と砂と瓦礫の世界だが、なぜかここには今でもどこからか電気が供給されているのだそうだ。
 おかげで、夜の帳が降り始めても周囲が暗闇には沈まなかった。
 ただ、いくら電気が通っていようと、真っ暗闇にはならなかろうと、ここは人気のない廃墟。
 この世界では、廃墟はどこも治安が悪い。
 暗くなっていく空に、無事に帰ることができるだろうか、と真剣に心配になり始めた頃。
「そろそろ…いい、かな」
「え?」
 お師匠様…はふたつさんがそんなことを小さくつぶやくと、ひっそりと呪文を唱え始めた。
 歌うようにして力ある言霊を紡ぎ、踊るようにして宙に文字を描いてゆく。
「見ててごらん、朝霧くん。これが、この町の本来の姿だよ」
 はふたつさんがそう言って、何かを足元に叩きつける仕草をする。
 瞬間、光の輪がワッ、と広がった。
「うわあっ」
 思わず目をつぶった僕が恐る恐る目を開くと、そこには見たこともない光景が広がっていた。
「…わぁ…!」
 立ち並ぶビル群。その全てに光が灯り、夜空を煌々と照らしている。
 道にはたくさんのクルマが走り、そちらも耐えることなく光を発している。
 行き交う“彼ら”は家路を急いでいるのだろうか、みなどことなくうれしそうな顔をしていた。
「綺麗…」
「ね。」
 それは、今の世界では到底見られない光景だった。
「…でも…なんか」
「…寂しい?」
「……はい」
「キミにとっては、そうかもね。でもこの世界にはこれが当然だった時代もあるんだよ」
 そう言ってそれを眺めるはふたつさんは、どこかひどく懐かしそうな表情をしていたのだった。