365 Themes *12/19~停滞中
18.自慢のコレクション(11/23) :ワンノン
ダンッ ダンッ
「開いてるヨ」
ダンダンダンッ
「開いてるってバ」
ダンダンダンダンダンダンダ
ガチャッ!
「開いてるって言ってるデショ!アンタ扉壊しにでも来たノ!?」
「よぉ」
ワンノンが、延々と殴り続けられる扉の音にしびれを切らし、いきなり開けてその向こうを怒鳴りつければ、そこにいた男は平然と挨拶をし、ずかずかと事務所内に入り込んできた。
「ちょっと、勝手に入るのやめてヨ」
男…ワンノンの仕入先でもあり顧客でもある、刑事のエスクロは、彼の注意など聞こえてないかのように部屋を無遠慮に眺め回すと、応接セットに目を止めた。
「なんだ、出てこないと思ったらご自慢のコレクションの手入れしてやがったのか」
「別に自慢でもコレクションでもないシ」
机の上には布や、粉の入った小瓶、水の入った容器などが散らばり、ここで先ほどまで何かの手入れをされていたのがわかる。
ワンノンはその前に座ると、懐から小さめのナイフを取り出した。
彼は、「ナイフ」と名が付けばペーパーナイフでも構わないというほどのナイフマニア、という一面を持つ。
今取り出したナイフもよくよく見れば、少し凝った装飾が施された「バターナイフ」なのであった。
どう考えても物を切るためには作られていないソレを、彼は丁寧に研ぐ。
「…初めて見るナイフだな。コレクター心くすぐるデザイン、ってか?」
「だからコレクションじゃないってバ。全部実用品。そういうのはコレクションとは言わないノ」
「まぁなんでもいいけど」
せっかくの説明を一蹴し、エスクロは口元にいつものニヤニヤ笑いを浮かべる。
「ところで今日、なんで俺がここに来たかというとだな」
「聞きたくなイ」
「おいおいそんな事言うなよ、つれないなぁ。お前にも美味い汁吸わせてやっから!」
「いらなイ。帰っテ」
「いいからいいから。要点はだな」
無視して話し始めようとする、彼の頬をかすめて一陣の風が通り抜けた。
一瞬遅れて、後ろの壁に何かが当たる音。
そちらを見もしないで投げられたバターナイフが、壁に刺さった音だった。
「…お見事」
頬の傷に気づいているのかいないのか、エスクロが賞賛の声を上げた。
「帰ってって言ってんだけど。てめえの持ってくる仕事はめんどくせーから受けたくねーって言ってんだけど」
ワンノンは彼を睨みつけ、冷たい声で吐き捨てるように言う。
「今日はナイフの手入れをする日ー、ってか。だが、その仕事をすればお前がお好きなそのナイフが手に入る、って言ったら?」
「!」
ふっ、と表情が変わる。それを見てエスクロが勝ち誇ったように笑った。
「とあるナイフの所有者を捜していてな。用があるのは持ち主の方だから、そいつが見つかれば所有物の方は自由にしていい、だそうだ。というか俺がそうさせた」
「…とあるナイフ、ッテ?」
「わかるだろー?そ、こ、か、ら、先、は」
しばしの沈黙。
やがてワンノンは、大きなため息をひとつ吐いた。
「誰の情報が欲しいワケ?あとオレは何をすればいいノ?」
「さすがはワンノン!それでこそオレの信頼する男、ってなもんだ。さて、そのナイフってのはだな…」
作品名:365 Themes *12/19~停滞中 作家名:泡沫 煙