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12.的中(11/17) :ワンノン


 その日は朝から、言いようのない「予感」だけが渦巻いていた。
「でねぇ? アタシあのときあなたにヒトメボレしちゃってぇ〜」
 けばけばしい化粧と派手な娼婦の衣装に身を包み、しなだれかかるは“仕入先”の幹部の胸。
 自身を『中性的な美人だ』と自称するワンノンは、娼婦や男娼のふりをして仕事をすることが多々ある。
 その成功率もなかなかのものだ。
 彼が現在収集しているのは、近年急速に力をつけてきているとされるとあるマフィアの情報。
 ときに品を、ときに身体を、ときに情報を売って、下っ端の構成員からこれまでに仕入れた情報によれば、つい最近、このマフィアのトップが交代したらしい。
 ワンノンの見立てによれば、これが急成長の原因だ。
 新しいボスのことが知りたい。そのためにはもっと深いところに踏み込まなくては。
 そんな考えで、徐々に狙いを下っ端から上層部へと上げていった。
 今回のターゲットに選んだこの男は、ここ数日の仕入れで名前の上がっていた幹部だ。
 女関係にだらしがない、という複数の証言が示すとおり、男は先ほどから品定めをするような視線を彼に向けてきていた。
「これぐらいまでなら出そう」
「ヤダッ!話がわかるぅ〜!でもぉ、アタシから声かけちゃったわけだしぃ、その半分でいいわぁ」
「まじでか!」
「まじよぉ♪ じゃあ今夜、さっき言ったお店で待ってるから『ユウアル』で指名してくれるぅ?」
「あぁわかった…と、ひとつ聞いていいか?」
「なぁに?」
「お前は『ユレン』っていう女、知ってるか?」
「…あらぁ!あなたアノ子のこと知ってるのぉ?」
「前に何度か世話になってなぁ」
 嘘だ。頭の奥でけたたましい警告音が鳴る。
 その名前は、彼が前回使ったばかりの偽名だった。
「あらぁそうなの。アノ子、最近お店変えちゃったみたいでどこにいるのかまだ聞いてないのよぉ」
「そうか…残念だ」
「やーん、アタシと約束したばっかなんだから他の女の話はなーし! じゃ、お店で待ってるからね♪」
 内心の動揺を隠して尻軽な娼婦を演じ切り、早くこの場を立ち去ろうと振り向いた後頭部に硬いものが押し当てられた。
「おいおい、そんなに急ぐことないだろう?」
 後ろから聞こえる声のトーンが、先ほどまでと明らかに変わっていた。
「なぁに? アタシ失礼なことしたぁ?」
 演技を続けながらも、予感が的中したな、と他人事のように思った。
「いやなに、ちょっと名前を教えてもらいたいと思ってな。『ユウアル』『ユレン』『サフアン』『ヤン』『ビエンファ』…あとは忘れちまったが。どれで呼んだらいいんだ?」
 それらはすべて、このマフィアのために彼が使った偽名だった。
「なにサ…つまりこういうコト? アンタが女に弱い、てネタ振った奴全員罠だったってワケ?」
 演じるのを諦め、ぼやきながら、ワンノンはゆっくりと両手を掲げる。
「ずいぶんとエサだけつまんでいきやがるから諦めかけてたけどな。結局、全部の針をくわえ込んだ馬鹿者がこうして釣り上がったってわけだ」
「エー…そんなに前から怪しまれてたワケ? シなくていい苦労したジャナイ…早く言ってよネ」
 大きなため息をひとつ。
「最初の『ユレン』の時点で認めたり、逃げ出そうもんならその場でこいつを使うつもりだったんだけどな」
 コツコツ、と頭をそれで小突かれた。
「その堂々っぷりが気に入った。お礼に、お前が会いたがってたであろうボスに会わせてやるよ」
「そりゃ願ってもないことデ。」
「で? 結局お前のことはなんて呼べばいいんだ?」
「ワンノン」
「それも偽名じゃないのか?」
「本名なんてとっくの昔に捨てちゃったヨ。今はそれが本名みたいなもんだシ、呪術なんかを使うんでモ、その名前で大丈夫だヨ」
 もはや投げやりとも取れる口調でそう答える。
「ワンノン…ね。それにしてもすごい名前を名乗ったもんだ」
「気に入ってんだヨ。ほっといてヨ」
「なんだっていいけど。じゃ、まぁ、後ほど」
「…あ、もしかしなくてもこれ殴られるパターン」
「ご名答」
 言葉とほぼ同時に後頭部に強い衝撃が走る。
 そして、彼の意識は深い闇へと落ちていった。