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失われた色彩~ロストパレット~

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 疾那は自分に何が起こっているのかを考えた。
自分が、『偶然ここについたのか』、それとも『どこかに倒れていたのを誰かがここに連れてきたのか』。
後者だった場合それが善意なのか悪意なのかで疾那の運命も変わってくる。

 少しの期待を込めドアノブに手をかける。
それを回すとあっさりとドアが開いた。
それで疾那は何者かの善意によってここにいることを理解する。

 「怪しい……けど行くしかないよな」

 どうせこの世界に俺の場所なんてない、と不感症のまま部屋を出た。
部屋を出てもそこにはただ廊下が続くだけで何もなかった。
精々レイアウトに壺や絵が数枚あるだけだ。

 そのまま廊下を歩き、外へと向かう疾那。
外の空気を吸うと受け入れられているのか、拒絶されているのかわからないなんとも言えない心境になる。

 「まずはどっちから探すか……。確かカラーってのはペンダントを触らないと取り込めないんだよな」

と、自分に問いかけるとどこからか答が返ってきた。
その答えはイエス、疾那はとりあえず気の向いた方向へ向かうことにした。

 ペンダントの在処は本能的にわかるようで、何かを目指して疾那は歩いた。
そして三回目の角を左折したときだった。

 「手を挙げて頭の後ろで組んで、膝からしゃがみなさい。でなければ攻撃するわ」

 背中に鈍い何かを押し付けられた疾那。
大人しく従うか考えた結果、死にたくはないからとしゃがんだ。

 端から見れば異様な構図だった。
制服姿の高校生男子が、同じく制服を着た女子高生にトンファーを押し付けられながら膝をついている。
しかし疾那の顔に恐怖の色はなかった。

 「何が目的だ? 金目の物は何一つ持ち合わせてない」

 「そんなのじゃないわよ、家の近くに不審者が彷徨いてたから拘束しただけ」

 そう言って赤髪の少女は指パッチンを鳴らした。

 「だけどよく見たら私がさっき保護してあげた人だったのよね」

 「ああ、お前が俺を助けてくれたのか。ありがとう、例を言う」

 「感謝されるほどのことはしてないわよ」

 赤髪の少女は頼もしい笑みを浮かべた。
拘束を解除され、疾那が少女の方を向き直すとそこには美少女が立っていた。
しかしその可愛さの中にも凛としたかっこよさもあった。
しかしそんな雰囲気にも疾那の心は動かない。
不感症で無感情な疾那に色欲なんてあるはずもなかった。

 「まずは自己紹介よね。私は神楽坂雛奈(かぐらざか ひな)」

 「俺は桜木疾那だ。よろしく」

 二人は手をだし握手を交わした。

 「まあお礼をしてくれるって言うなら、ちょっとお願いがあるんだけどいいかしら?」

 「ああ、わかった。で、何をすればいいんだ?」

 「ちょっと薪を切ってほしいの」

 「薪? なんだ家を燃やすのか?」

 「普通に暖を取るって言えなかったのかしら。しかも冗談ってわからないから真顔で言わないで欲しいわ…」

 「違ったのか。まあいいじゃあ薪を持ってきてくれ」

 と言うのと同時に疾那は宙に「空」と書いた。
すると宙に木刀が出現する。
それを持ちながらもう一度同じ字を書き、風をまとわせた。
雛奈はそれを見て、目が点になっていた。

 「桜木くん……もしかして能力者なの?」

 「ああ、そうだ。俺は能力を持っている」

 疾那が隠さずに告白したのは、雛奈も能力について知っていると思ったからだ。
知っているなら雛奈は彩人か、それともアートのような存在か、もしくは罪人かのどれかになる。
彩人であるのが一番都合がいいのだが……。
逆に罪人であるのが一番都合が悪い。

 「で、雛奈は彩人か罪人どっちだ?」

 「私は彩人よ。証拠はないけど信じてもらえるかしら?」

 「否定する理由がない。信用しよう」

 「ありがとう」

 そう言って雛奈は指パッチンを鳴らした。
その笑顔はとても可愛らしいものだったが、疾那が反応するはずもなかった。

 「まあ信用する材料として、能力を見せてもらっていいか? まあ、しょせん確認程度だ、嫌ならしなくてもいい」

 「いや見せるわ。私の能力は炎霊(フェアリーテイル)。炎を操る能力よ」

 と言って、指を突きだしその先から炎を出した。

 「その能力名は自分で考えたのか?」

 疾那の言葉を聞いた雛奈は頬を赤く染めた。
そしてぶんぶんと腕を振り、否定を表現した。

 「そ、そ、そ、そんなわけないじゃない!」

 「なんで頬を赤くしてるんだ? にしても炎を操る能力か、俺のとは違って大分便利そうだな」

 「桜木くんの能力はさっきの木刀を出す能力?」

 「まあ半分は正解だ」

 疾那は雛奈に自分の能力を説明した。
反応は微妙な感じで、可もなく不可もなくといった様子だ。
ついでに疾那は自分が今しようとしていることを説明した。
やはり同じように雛奈の反応はなんとも言えない感じだ。

 「と言うわけで改めて質問だ。一つ、俺に着いてきてくれるか。もう一つ、カラーについてなにか情報はないか」

 疾那は薪を切りながら雛奈に質問を投げ掛けた。
カラーについては知っていればラッキー程度に疾那は思っている。
雛奈は顎に手をあて情報を整理していた。
何を伝えるべきか、何を説明しないべきか、取捨選択をしている。

 「そのカラーってのはペンダントの形をしてるのよね?」

 「らしいな。俺自身まだみたことないからはっきりしたことは言えないが」

 「だとしたら見たことあるわ。私の幼馴染が持っているはずよ」

 「それは本当か?」

 嘘をつくわけないじゃない、と雛奈は笑顔で答えた。それを疾那は薪を割りながら首を縦に振り肯定を示す。

 「無愛想な反応ね。お姉さんつまらないわ」

 「そうか、それは悪かった」

 「そう言うとこが悪いのよ!」

 「すまない」

 「だからっ! もー! 本当調子狂うわね!」

 半切れ気味の雛奈に疾那は不思議そうに首をかしげるだけだった。

 「まあ、良いわ。あなたの旅に付き合うのは構わない。ただしひとつ条件があるわ」

 「聞けるものなら聞こう」

 「さっき言っていた幼馴染に起こってる問題を解決してほしいの」

 「問題?」

 「そうよ、ちょうどペンダントを手に入れたくらいからかしら、その頃からあの子の性格が暴力的になったの。それと私みたいな能力も持っていて……」

 「そのぐらいなら構わない。是非ともお前に協力しよう」

 「ありがとう。じゃあさっそく問題解決に行きましょうか」

 雛奈は相変わらずの俺とは対極的な笑顔でそう言った。

 「いや、待て。行くのはもうちょっとしてからにしよう」

 「なんでかしら?」

 「薪を……全部切ってからにしよう」

 「……好きにしなさい」

呆れ顔で雛奈は俯いていた。