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ホワイト・グ-ス・ダウン

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『ホワイト・グ−ス・ダウン』


「パパ、温かいお布団にしておいたからね」
妻の夏子がパジャマに着替えた高見沢に話し掛けて来た。

「ふうん、そうなの」と高見沢は気のない返事をする。
だが夏子は、「ねえ、聞いて聞いて」とどうしても喋りたい様子だ。

高見沢がそれでも沈黙していると、
「ポ−ランド産のホワイト・グ−ス・ダウンよ、95%の羽毛ふとんなの、あったかいわよ」と、舌の噛みそうなことを話して来る。
「それ、何なんだよ?」
ここはまず聴いてみる事が夫の勤めと、高見沢は即座に返した。

「これよ!」
夏子が嬉しそうにベッドに掛けてある布団を摘んで見せる。
それから説明が始まった。

「パパ、知らないの、今、流行ってるのよ、
これはポ−ランド産の最高級品なの、羽根布団とちょっと違うのよ、
ホワイト・グ−ス・ダウンだから、あったかいわよ、

だって、このふとん1枚で、150匹分なのよ」

「へえ、そうなの、150匹ね、それは良かったなあ、あったかそうで」
高見沢は妻の機嫌を損なわないように相槌を打った。
しかしその後、何気なく呟いてしまう。
「そう言えば、ダウンて飛ぶ羽じゃなくって下毛、胸の前の毛だろ、つまり胸毛だよな?」

「そうよ、だから羽根布団じゃないの、私のセレブリティなチョイスなのよ」と夏子がえらく威張ってる。
高見沢はそんな愛妻の振る舞いが可愛く、ついつい聞いてしまう。
「で、何の羽毛なの?」

すると夏子からすかさず答が。
「だから最初に話したでしょ、グ−スよ」と。

高見沢はそれを聞いて、少し英単語の記憶の糸をたぐる。 
そして呟く。

「グ−スね、それって日本語で言ったら、ガチョウのことだよなあ、
うーん、ガチョウの胸毛のふとんか、なるほどね … まあ、ニワトリよりは益しかもな」

夏子はこんな夫のレスポンスにムっと来ている。
「ゴメン、ゴメン、良いふとんで、あったかそうで、ぐっすり眠れそうだね、じゃ、おやすみ」

高見沢は事態がさらに悪化する事を恐れ、さっさとベッドに潜り込んだ。