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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「神のいたずら」 第十章 約束

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「いい事言うね・・・幸せの選択になった・・・か。なるほど。先生は新潟に行くけど、休みになったら遊びにおいで。海も綺麗だし、食べものも美味しいから、みんなで来るといいよ」
「わ〜い、絶対にそうする。いいなあ、早川先生は。幸せになれそうな気がする、ねえママ?そう思わない?」

碧に聞かれた由紀恵は、さっきから話を聞いていてずっと泣いてしまっていたから返事が出来なかった。

「ママ・・・泣いてるの・・・碧も泣いちゃうじゃん、もう・・・」
清水は涙を堪えながら碧と由紀恵に挨拶をして帰って行った。この日が今の碧と話した最後の時間になったとは予想も出来なかっただろう。

桜が満開の3月の終わりに碧は貴樹と花見に上野にやってきた。平日でも春休みとあってたくさんの人で賑わっていた。若いカップルが目立つ。お年よりも多い。綺麗に咲いている花を眺めながら、碧が作ってきたお弁当を一緒に食べ始めた。

「全部碧ちゃんが作ったの?」
「そうだよ、朝6時に起きて作ったんだよ」
「偉いねえ・・・勉強だけじゃなく、こんなことも出来るんだ・・・」
「ギターだって弾けるよ」
「ウソ!すげえ・・・負けた」
「何が負けたの?」
「だって俺なんか笛だってまともに吹けやしないから」
「ホラなら吹けるの?」
「冗談きついよ!ホラなんて吹かないから」
「まともに受けるなんて、面白いひと」
「あまりからかうなよ・・・純情なんだから」
「ほんとそうね、それにマザコンだし・・・」
「きっついなあ、それは。みんなから言われるけど・・・そう見えるの?」
「やっぱりね。ひょっとしてまだ一緒にお風呂に入ってない?」
「入ってないよ!今は」
「えっ?じゃあいつまで入っていたの?」
「碧ちゃんぐらいまでかな・・・」
「信じられない!冗談でしょ?」
「毎日じゃ無かったよ・・・旅行に行った時とか、母さんが呼んだ時とかだけだったから」
「ふつう男の子だったら恥ずかしいから母親なんかとは入らないよ」
「でも・・・親子だし。変な気持なんか起こらないよ」
「当たり前でしょ、そんなこと」
「碧ちゃんはパパと入ったこと無いの?」
「パパと・・・去年一緒に入って背中流してあげたよ」
「じゃあ、俺と一緒じゃないか。なんだ、ファザコンじゃないの?」
「怒るわよ!もう、帰る・・・」
「ゴメン・・・本気じゃないから」

どうも話しているとけんか腰になってしまう癖が抜けない碧であった。頭を撫でてくれて謝っている貴樹に、
「わがまま言わないって・・・言ったのに、碧の方がゴメンなさいです」そう言った。

「ねえ、碧ちゃん。今度いつ遊びに来てくれる?」
「お家にっていう事?」
「そうだよ」
「ママがね、今度は家に来てもらいなさいって言うから、遊びに来てよ」
「ほんと?じゃあいつにしようかな・・・部活の無い日曜日っていつ?」
「待ってね・・・」碧は携帯のカレンダーを見てチェックした。

「夏の大会まではずっと練習が入ってるよ。4月29日祝日か、ゴールデンウィークの3から5までなら大丈夫だよ、貴樹さんは?」
「ゴールデンウィークは無理かな。家族で出かけるからね。じゃあ、29日にしよう。何時に行けばいい?」
「その日は夕方まで多分パパとママは出かけているから、晩ご飯食べる予定で遅めに来てよ」
「どこに出かけているの?碧ちゃんは行かなくてもいいのかい?」
「うん、お父さんの仕事先の人と夫婦でランチするってメモってあった。だから、何時でもいいけど・・・3時ぐらいにする?」
「3時だな・・・メモして置こうっと」貴樹も携帯のスケジュールに書き込んだ。

自分で話しておいて気付くのが遅かったが、その日は夕方まで貴樹と二人っきりになりそうだ。弥生が居てくれれば貴樹は遠慮するだろうが、居なければきっと約束を果たすように迫られるだろう。そんな事を考えながら、目白駅で碧は一人降りた。ホームから電車が出るまで手を振って貴樹を見送った。

コンビニに寄ったら、見知った顔の店員に「いらっしゃいませ」と声かけられた。
「先輩!・・・ここでバイトですか?」
あの卓球部の先輩が働いていたのだ。前と全然違う風貌に少し驚きながら、信じられない目で見ていた。
「小野さん・・・遊んでばかりいられないから、ここでバイトしてんだよ。もうあいつらとは縁を切ったから、安心しな。これからは、怖がらずに買いに来てよ」
「はい・・・そうでしたか。先輩その格好とっても似合いますよ。頑張って下さい」
「ありがとうよ・・・しかし、お前は美人だなあ・・・大人っぽくなってきたし、そのうち真面目にデートしてくれよ」
「何言ってるんですか!調子いいですね。ダメに決まっているじゃないですか」
「振られたな・・・さては誰か好きな人が出来たな?図星だろう?」
「内緒です。じゃあ、また」

意外な人が意外に変っていた。あの先輩も本心では悪い人じゃなかったのだろう。なんだか嬉しくなった気分で碧は家路を急いだ。


新学期が始まって、クラス替えがあり碧は再び一組になった。そして担任は前島になった。
今年に入って碧の身体は急速に大人に変わってきた。本人がビックリするような変化であった。まだ一月ぐらいしか間が開いていないのに、見違えるほど変わっている容姿に優は驚きを隠せなかった。当然初めて同じクラスになった男子からは、羨望というのを通り越して奇異な目で見られているように碧には受け取れた。

詩緒里は仲良くしていたが、クラスが変わったことで以前よりは付き合わなくなっていた。もちろん彼が居るので休みは当たり前にデートしていたから、より会う時間はなくなっていたのだ。この日の帰りに優は碧を呼び、中庭で少し話をした。

「先生、なんですか?」
「碧ちゃん、先生ね前に話した結婚のお話しがある方と正式にお付き合いを始めたの。あなたに言っておかないといけないと思って。清水先生も結婚されて新潟に行かれたし、私も嫌な人じゃなかったら、決めちゃうわ」
「本当ですか?・・・優先生の気持ちに素直に従えば、それが幸せの縁だと思いますよ」
「そうね、そう思わなきゃ・・・全てを忘れる事は出来ないけど、区切りはつけないとね」
「そうしてください。良かったです。碧も早く幸せになりたいなあ・・・」
「あら!そんな歳でもう結婚したいの?」
「そうじゃないけど、清水先生も早苗先生も幸せそうだったから、羨ましくなったの」
「そういえば、碧ちゃん急に大人っぽくなったね。先生ビックリしてるのよ」
「私もビックリしてるんです。胸だって3ヶ月でワンサイズ上がったんですよ!それに・・・」言いかけてやめた。恥ずかしくなったからである。
「それになに?」
「聞かないで下さい。恥ずかしいから」
「珍しいわね、恥ずかしいなんて・・・そういうところも女っぽくなったのね。いいことだわ」
「そうですか・・・大人と多分同じぐらいになってきた、っていう事です。イヤだ言っちゃった・・・」

よく意味が理解できなかった優だったが、多分言いたい事は何か想像できた。クスッと笑って、部活が終わったら一緒に帰ろうと誘って、職員室に戻っていった。

碧と貴樹にとって最初で最後の運命の日が明日に迫っていた。