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てっしゅう
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「神のいたずら」 第十章 約束

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「碧は、貴樹くんと付き合ってもいいと考えているの?」
「わかんない・・・お話ししたことないから」
「そうね、でもあの子ずっと碧を見てたよ。きっと気に入ったと思うけど・・・気付かなかったの?」
「知ってたよ・・・視線が合わせられなくてうつむいちゃった」
「それで下向いていたのね・・・結構純じゃん!」
「結構じゃないよ!純情だよ、ずっと今までも」
「直ぐキスしちゃう子が、純?おかしくない?」
「おかしくなんか無いよ。キスと純情とは違うもん」
「じゃあ、キスは何?ご挨拶程度?」
「まだ突っ込むの?・・・お姉ちゃんはどうなの?」
「私は自分からはしないよ。純情だからね。求められて初めて応えるだけ・・・碧とは違うの」
「一緒だよ、結果するんだから・・・一人の人だけを想うことしか出来ないのが純情っていう事。キスとかは関係ないよ」

なるほど・・・と弥生は思った。


2010年の新年を迎えた。話は少し雲の上のことになる。

隼人の魂をこの世に戻した『神』は大切な仕事をしなければならなくなっていた。人類がこの世に誕生した日から脈々と続く神の世界。それは宇宙のパラレルワールドでもあった。この世とあの世、その二つの世界を繋ぐものは生と死でありその絶え間ない循環がお互いの世界を成長させてきた。

人類を作ったのが神ではない。
人類として生きることを作ったのが神だ。

魂の世界には肉体が無いから寿命が無い。しかし、衰えは来る。消え去ることは無くても輝きがわずかなものに変化してしまうことはある。それを甦らせるために再び人間の肉体を借りて復活させる。苦しみや悲しみ、喜びや楽しみはこの世界にはない。あるのは・・・愛。

『神』は無数の魂の根源であった。一つの存在から今あるすべての生命に分け与えてきた存在でもあった。
したがってこの世界の魂はすべて自分の子供でもあるのだ。人間社会にあるような感情は存在しないから、可愛いとか憎いとかの区別は無い。魂の輝きの大きさだけが意識されることであり、神の傍に仕えられるかどうかの測りになる。

早急に傍に仕えて必要とする仕事のために強く輝く魂が必要になってきた。

『神』はつぶやく・・・
「隼人の魂を戻すことにしよう」

その魂の輝きの大きさゆえ我がままを聞いてもらえた隼人であった。碧の身体に宿っているその生命力は隼人の魂そのものである。封印された「神との約束」は記憶に無い。わずか3年目で戻されることになろうとは夢にも思わなかったであろうが、『神』の絶対的な要求は非情にもしばらくして実行されることになる。

初詣を済ませた碧たちはそれぞれに別れて時間を潰して夕方集合して帰ろうという事になった。弥生も明日香も彼と二人の時間を少しぐらいは欲しかったし、碧と貴樹を二人にして仲良くさせようという狙いもあった。

「じゃあここで別れようね・・・集合は5時ね。貴樹、ちゃんと碧ちゃんを守ってあげてよ」明日香はお金持ってるかどうか確認して、「頑張ってね」と耳打ちした。
「碧も迷惑かけるんじゃないよ。困ったら連絡してね」弥生は財布から少しお金を出して手に持たせた。
「お姉ちゃん、要らないよ。碧いくらか持っているから」
「いいのよ、安心のために。使わなかったら返して」
「ありがとう・・・じゃあ5時にね」

手を振って別れた。
「貴樹さん、どうする?」
「映画観るか・・・遊園地かにしようか?」
「そうね・・・水族館は?」
「サンシャイン?・・・それもいいね。しばらく行った事ないから」
「じゃあそうしましょう」

水族館はお正月とあって賑わっていた。小さな子供が多く走り回っていたので何度か二人は離れてしまったりした。間に割り込んで来るからだ。
貴樹は思い切って自分の右手を差し出して碧の左手を握った。
「直ぐに離されるから・・・こうしてよう」
ちょっと驚いたが、悪い気はしなかった。
「うん、ありがとう・・・」

それだけしか言わなかった・・・言えなかった。

着物姿の碧は歩きにくかったのでちょうど手を繋いでゆっくり歩いた方が嬉しかった。
「貴樹さんのこと、お兄ちゃんみたいに感じる。大きな手だし、背も高いから」
「お兄ちゃんなの?ふ〜ん・・・じゃあ碧ちゃんは、妹だ」
「早く大きくなって妹から彼女にならないといけないね」
「彼女か・・・そうなってくれたら嬉しいなあ」
「今まで好きになった人いなかったの?」
「気になっていた子はいたよ。でも・・・想っていただけ」
「ふ〜んそうなの。じゃあ、今日が、初デートなんだ?」
「デート?・・・そうか、そうなるね」
「碧じゃ不足?子供過ぎる?」
「そんな事ないよ!・・・碧ちゃんは、とっても・・・可愛いから、嬉しいよ」
「なんだか言わせちゃったみたいね・・・碧の悪い癖・・・これからも逢ってくれるよね?」
「うん、もちろんだよ。碧ちゃんがよければ、また逢いたい」
「じゃあ、メール交換しよう」

お互いにメルアド交換して逢えない時は電話をしようと話し合った。

貴樹にとって碧は妹のように可愛くも見えたし、時々ドキッとするぐらい女っぽい目線が胸をドキドキともさせていた。友達に自慢できる彼女が出来たことに今まで経験したことの無い嬉しさを感じていた。
恋をするという事は、こういう気持ちになるということだったのか・・・13歳の碧に惹かれて行く自分をちょっと戸惑いながらも、大人に近づいてゆける気がしていた。

碧は今まで付き合った同級生とは違う距離感を感じていた。それは、歳の差がそうさせるのか、顔付きも体付きも中学生とは異なる大人の魅力でそう感じるのか、とにかく甘えたいと初めて男性に感じた。

水族館を出てサンシャインの広場で腰かけて噴水を見ながら話をした。
「碧は貴樹さんにお話ししておかないといけないことがあるの。信じられないかも知れないけど聞いてね」
「なに?大切なこと」
「うん、とっても・・・」
「話して、驚かないから」
「一昨年の3月に大きな事故に遭って、それまでの記憶を失くしてしまったの・・・目が覚めたら今の自分になっていた。変な言い方だけど、ママもパパもお姉ちゃんも知らない人だった。戸惑って、悩んで、今の私がいるの。これからひょっとして過去を思い出すことがあるかも知れないけど、動揺してしまう自分が怖いの。どんなことがあっても、仲良くしてくれるって約束して・・・貴樹さんの事一番好きになるから」
「碧ちゃん・・・大変な思いをしたんだね。ボクだったら・・・当たり前になんか暮らせていないよ。まだ高校生になったばかりだけど、キミより少し大人だから頼ってくれて構わないよ。何が起こっても碧ちゃんを好きでいるから」
「本当?・・・貴樹さんと一緒にいたい・・・我儘だけど、怒っていいから。碧ね、もう直ぐ誕生日なの、26日。14歳にやっとなる。貴樹さんはいつ誕生日?」
「26日か・・・じゃあその日はお祝いしなくちゃね。ボクは済んじゃった。12月8日だから」
「そう、射手座ね・・・私はみずがめ座」
「星座か・・・占いって気になる?」
「あんまり気にならないよ。いい事があるって書いてあったら、嬉しくはなるけどね。貴樹さんは?」
「ボクは・・・信じないけど、姉は好きなんだよ、そういう事が」