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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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4月になってすぐ宏はA市の駅に居た。
渡良瀬川に架かる橋を渡りそのまま、真っ直ぐ北に行けばばんな寺である。
暖かな日であった。宏は1人である。15分も歩くとばんな寺に着いた。
桜の花が満開である。
宏はただ手を合わせた。
幸子と由美の事を思い出していた。
あの日の初々しい気持ちが思い出された。
桜の花を見た。周りの木々の緑に映えて色鮮やかである。
美しさには心が洗われる。
宏はここに来てよかったと思った。
それから数日して真理恵が妊娠したと言った。
「お母さんが孫の顔見たいって」
「本当に出来たのか」
宏は真理恵には子供は出来ないと思っていた。
「お医者に診ていただいたから・・・・」


真理恵は38歳になっていた。
「体は大丈夫なのか?」
「高齢出産になるけど心配ないって」
「無理しないでくれよ」
宏は何年振りかに真理恵にいたわりの言葉をかけた。
真理恵も久しぶりに嬉しそうな顔をした。
その日の夕食はいつもの食べ物が出たのであるが、宏には美味く感じた。
母も真理恵もそんな風に見えた。
「幸子、結婚することになった」
まだ幸子からそんなことは聞いてはいないのに、宏は決めたように告げた。
「幸子さん今まで辛抱してくれたね」
母が改めて真理恵に言った。多分母はこの言葉を何百回と言ってきたに違いない。
宏は母と真理恵に心の中で謝っていた。
余りに平凡な真理恵を今日は美しいと宏は思っていた。
愛おしいとも思った。

作品名: 作家名:吉葉ひろし