蝶
宏はこれほどまで婚約が簡単にいくとは考えてもいなかった。
水田の両親の了解を得たら式を挙げようと考えた。
半年くらい先を予定していた。
その矢先、幸子から電話が店に入った。
幸子はサラ金の返済を宏が完済してくれたことを知り、どうしてもそのお礼がしたかったのである。
幸子はある決意をしていた。
約束の場所はばんな寺である。
宏の返事は『都合がついたらいく』と言うのだった。
4月花冷えのする夜である。
しだれ桜が街灯に照らされて薄ぼんやり見える。
そこに立っていたのは宏であった。
幸子は走り寄った。
「無理言ってごめんなさい」
「ぼくも言いたい話があるんだ」
「お金宏さんでしょう、返してくれたの」
「ハンカチの代金さ」
「ありがとう。そうさせて頂く・・・」