手紙が告げた、僕の未来は。
僕はハタチになった三日後、ついに、仕事を辞めた。
亡くなった母さんと、仕事は辞めない、と約束していたのに。
高校卒業後にずっと会社に勤めて頑張っていたけど、いい加減もうストレスの限界だった。
「僕は社会の歯車になるために生きているんじゃない!」
そう思った次は、
「僕は社会の歯車にすらなれないのか……」
と落ち込む。
ようちゃんに、会いたいな。
心に穴が空いたような気持ちになった時、ふとそう思いついた。
いっつも元気で面白くて物知りで、そして何より、とても優しかった大好きないとこ。自然と音信不通になってしまい、住んでいる場所も何の仕事をしてるかもわからない。
たまに親戚から聞く噂と言えば、いい年して結婚もせずにフラフラしてる、だの、昔からあいつは努力できない奴だった、だの、それはもうろくでもない評判ばかりだった。一人暮らしでバイトをするなどしながら食いつなぎ、のらりくらり。
父さんが何人か親戚を当たってくれて、ようやく手に入れた住所も、親族がわかる限りで最新なだけで、もしかしたらまた引越しているかもしれない、とのこと。
僕はなんとも言えない気持ちで住所が書かれたメモを父さんから受け取ると、仕事を辞めてしまったこと、そしてとにかくまた会いたいことを強く手紙にしたためたのち、早速ポストにそれを投げ入れた。
一週間後。いつか返事はくるだろうか、と期待と不安が入り混じっていたある日、呆気なく、僕宛のそれは届いた。
「三上洋平より」。
洋平……ようちゃんだ!
僕は急いで二階に駆け上がって部屋に戻ると、はやる気持ちを押し殺しながら丁寧に便箋を破った。待ち望んでいた中身を開くと、そこには、今の僕の全てを見透かしたかのような、ようちゃんからの沢山の言葉が綴られていた。
手紙。
元気そうで、安心した!
題名、シンプルでいいだろ?
なかなか連絡できなくてごめんな。
お前が俺のこと、あんな風に思ってくれてるなんて、まさか思いもしなかったよ。
正直、俺もお前のことは気になってた。
手紙で読んだけど、仕事、辞めたんだって?
じゃあ、しょうがねえよな。
お前のことだ、ちゃんと頑張ってきたんだろうと思う。
だから、仕事を辞めたくらいどうってことない。
お前は自分が思っている以上にまだまだ子供だし、まだまだ若い!
今俺は、毎日必死に頑張ってる。
色んな人の頑張りを、思い出しながら。
もちろん、お前の頑張りもな。
高校卒業後、お前は未成年なのにちゃんと就職して、泣き事も言いながらだけど、社会に負けずに戦い続けた。
俺なんてハタチ超えてたのに学校も仕事も行かずに、バイトを転々としながら好きに生きてた大甘野郎だぜ。
誇っていい!
他人に誇るんじゃなく、自分にだ!
いつか、その誇りは本当に社会に出てから強さになる。
俺が知らない強さを……お前は、持ってるんだよ。
俺の言いたいこと、わかってくれるよな?
俺な、今年初めに28になって、やっとわかった確かなことがあるんだ。
実は、人間はハタチから大人になるんじゃない、ありゃウソだ。
人間が大人になるのは、28から。
これは内緒の話だから、人に言っちゃだめだぞ?笑
お前が28になった時、若さと肉体と心と言葉と希望は、人生のピークを迎えるんだ。
同時に、一日たりとも休むヒマがないほど、それを全力で発散もしたい気持ちになるはずだ。
今俺はこうして28になって、日々頑張ってるけど。本当に色んなことがあった……。
いや、ありすぎた。
でもやっと、今は心からでかい声で言えそうな気がするんだよ。
生きていてよかった、って。
生まれてきてよかった、って。
高い目標を持ちたい、って。
愛し、愛されたい、って。
わかったんだよ、やっと。
色んな人が口にするその言葉の、本当の、意味を。
お前も色々あるだろうけど、頑張れよ!
俺の持ってない、お前の強さ。
またいつか、聞かせてくれよ。
もし、俺なんかでよかったら、教えてほしいことがあったら全部教えてやる。
ただし、世間様にゃよしとされない自論も、たっくさんある。
だから、聞いたお前が響いた言葉以外は、絶対に意識するな、無視しろ!
あと、そん時は朝まで付き合え!
最近、忙しいうえにかみさんが身重だから、思いっきり飲んでないんだよ。
それと実はな、あとひとつ、最後に聞いた時お前のオフクロさんの容体があんまよくなかったから、ずっと気になってたんだよ。
おばさん、元気にしてんのか?
よろしく言ってた、って伝えといてくれよ。
おばさんが作る特性のオムカツカレー、久しぶりにまた食いたいしさ。
なぁ、いいか。
オヤジやオフクロへの感謝を言葉ばっかりで他人に自慢して自己満足なんてして、実生活じゃ実際は甘えまくってるような人間にだけは、なるなよ。
挫折は努力の証。
成功は成長の証。
少年よ、大志を抱け!
頑張りどころだと感じたら辛くても頑張れ!その勘は常に正しい。おばさん、おじさんのおかげでな。
その上でも辞めたくなったらまた辞めたっていい。
最後に。
今、お前はハタチだろ?
真の大人まであと8年!
最高に長い、滑走路だな。
人に迷惑が全くかからないことなら、犯罪以外は好きなことして暮らせ。
誰も邪魔する権利なんてない、お前の人生だ。
でも、頑張れば頑張るほど自分がちっぽけで、不幸な人間に思う日が来るだろう。
でもそれは、お前の単なる思い込みだから気にするな!
頑張ってりゃ周りにはちゃんとその姿勢は見てもらえるようになる!
だけど、8年間のことだ。
深刻なほど精神的に参る時もあるだろう。
でもこの手紙を読んで、お前がすぐに動き出すなら、頑張りながら苦しむ時間が長いほど、強くなれる。
人間は、弱いから落ち込むんじゃない。
頑張っている時にこそ、向上心を強く持った時にこそ、落ち込むもんなのさ。
自分では頑張ってないと思えても、見方を変えればちゃんと頑張れてるんだ!
あと、8年。
ものごと、見方を変えるのが人生の秘訣だぜ!
それでも、いつか心底しんどくなったときは、これからの「8」年間の「見方」を、変えてみな。
重ねてきた年月に苦労や失敗が多ければ多いほど、何度でもお前を救ってくれるだろうぜ。お前は今からそれができて、本当に幸せ者だ、うらやましいよ。
悩みは、強がったりなんかせず、絶対一人でかかえこむんじゃないぞ。わかったな?
また落ち着いたら、改めて連絡するよ。
手紙、サンキューな。
ようちゃんより。
亡くなった母さんと、仕事は辞めない、と約束していたのに。
高校卒業後にずっと会社に勤めて頑張っていたけど、いい加減もうストレスの限界だった。
「僕は社会の歯車になるために生きているんじゃない!」
そう思った次は、
「僕は社会の歯車にすらなれないのか……」
と落ち込む。
ようちゃんに、会いたいな。
心に穴が空いたような気持ちになった時、ふとそう思いついた。
いっつも元気で面白くて物知りで、そして何より、とても優しかった大好きないとこ。自然と音信不通になってしまい、住んでいる場所も何の仕事をしてるかもわからない。
たまに親戚から聞く噂と言えば、いい年して結婚もせずにフラフラしてる、だの、昔からあいつは努力できない奴だった、だの、それはもうろくでもない評判ばかりだった。一人暮らしでバイトをするなどしながら食いつなぎ、のらりくらり。
父さんが何人か親戚を当たってくれて、ようやく手に入れた住所も、親族がわかる限りで最新なだけで、もしかしたらまた引越しているかもしれない、とのこと。
僕はなんとも言えない気持ちで住所が書かれたメモを父さんから受け取ると、仕事を辞めてしまったこと、そしてとにかくまた会いたいことを強く手紙にしたためたのち、早速ポストにそれを投げ入れた。
一週間後。いつか返事はくるだろうか、と期待と不安が入り混じっていたある日、呆気なく、僕宛のそれは届いた。
「三上洋平より」。
洋平……ようちゃんだ!
僕は急いで二階に駆け上がって部屋に戻ると、はやる気持ちを押し殺しながら丁寧に便箋を破った。待ち望んでいた中身を開くと、そこには、今の僕の全てを見透かしたかのような、ようちゃんからの沢山の言葉が綴られていた。
手紙。
元気そうで、安心した!
題名、シンプルでいいだろ?
なかなか連絡できなくてごめんな。
お前が俺のこと、あんな風に思ってくれてるなんて、まさか思いもしなかったよ。
正直、俺もお前のことは気になってた。
手紙で読んだけど、仕事、辞めたんだって?
じゃあ、しょうがねえよな。
お前のことだ、ちゃんと頑張ってきたんだろうと思う。
だから、仕事を辞めたくらいどうってことない。
お前は自分が思っている以上にまだまだ子供だし、まだまだ若い!
今俺は、毎日必死に頑張ってる。
色んな人の頑張りを、思い出しながら。
もちろん、お前の頑張りもな。
高校卒業後、お前は未成年なのにちゃんと就職して、泣き事も言いながらだけど、社会に負けずに戦い続けた。
俺なんてハタチ超えてたのに学校も仕事も行かずに、バイトを転々としながら好きに生きてた大甘野郎だぜ。
誇っていい!
他人に誇るんじゃなく、自分にだ!
いつか、その誇りは本当に社会に出てから強さになる。
俺が知らない強さを……お前は、持ってるんだよ。
俺の言いたいこと、わかってくれるよな?
俺な、今年初めに28になって、やっとわかった確かなことがあるんだ。
実は、人間はハタチから大人になるんじゃない、ありゃウソだ。
人間が大人になるのは、28から。
これは内緒の話だから、人に言っちゃだめだぞ?笑
お前が28になった時、若さと肉体と心と言葉と希望は、人生のピークを迎えるんだ。
同時に、一日たりとも休むヒマがないほど、それを全力で発散もしたい気持ちになるはずだ。
今俺はこうして28になって、日々頑張ってるけど。本当に色んなことがあった……。
いや、ありすぎた。
でもやっと、今は心からでかい声で言えそうな気がするんだよ。
生きていてよかった、って。
生まれてきてよかった、って。
高い目標を持ちたい、って。
愛し、愛されたい、って。
わかったんだよ、やっと。
色んな人が口にするその言葉の、本当の、意味を。
お前も色々あるだろうけど、頑張れよ!
俺の持ってない、お前の強さ。
またいつか、聞かせてくれよ。
もし、俺なんかでよかったら、教えてほしいことがあったら全部教えてやる。
ただし、世間様にゃよしとされない自論も、たっくさんある。
だから、聞いたお前が響いた言葉以外は、絶対に意識するな、無視しろ!
あと、そん時は朝まで付き合え!
最近、忙しいうえにかみさんが身重だから、思いっきり飲んでないんだよ。
それと実はな、あとひとつ、最後に聞いた時お前のオフクロさんの容体があんまよくなかったから、ずっと気になってたんだよ。
おばさん、元気にしてんのか?
よろしく言ってた、って伝えといてくれよ。
おばさんが作る特性のオムカツカレー、久しぶりにまた食いたいしさ。
なぁ、いいか。
オヤジやオフクロへの感謝を言葉ばっかりで他人に自慢して自己満足なんてして、実生活じゃ実際は甘えまくってるような人間にだけは、なるなよ。
挫折は努力の証。
成功は成長の証。
少年よ、大志を抱け!
頑張りどころだと感じたら辛くても頑張れ!その勘は常に正しい。おばさん、おじさんのおかげでな。
その上でも辞めたくなったらまた辞めたっていい。
最後に。
今、お前はハタチだろ?
真の大人まであと8年!
最高に長い、滑走路だな。
人に迷惑が全くかからないことなら、犯罪以外は好きなことして暮らせ。
誰も邪魔する権利なんてない、お前の人生だ。
でも、頑張れば頑張るほど自分がちっぽけで、不幸な人間に思う日が来るだろう。
でもそれは、お前の単なる思い込みだから気にするな!
頑張ってりゃ周りにはちゃんとその姿勢は見てもらえるようになる!
だけど、8年間のことだ。
深刻なほど精神的に参る時もあるだろう。
でもこの手紙を読んで、お前がすぐに動き出すなら、頑張りながら苦しむ時間が長いほど、強くなれる。
人間は、弱いから落ち込むんじゃない。
頑張っている時にこそ、向上心を強く持った時にこそ、落ち込むもんなのさ。
自分では頑張ってないと思えても、見方を変えればちゃんと頑張れてるんだ!
あと、8年。
ものごと、見方を変えるのが人生の秘訣だぜ!
それでも、いつか心底しんどくなったときは、これからの「8」年間の「見方」を、変えてみな。
重ねてきた年月に苦労や失敗が多ければ多いほど、何度でもお前を救ってくれるだろうぜ。お前は今からそれができて、本当に幸せ者だ、うらやましいよ。
悩みは、強がったりなんかせず、絶対一人でかかえこむんじゃないぞ。わかったな?
また落ち着いたら、改めて連絡するよ。
手紙、サンキューな。
ようちゃんより。
作品名:手紙が告げた、僕の未来は。 作家名:セブンスター