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緑の季節【第三部】

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ある日、ふたりは公園へ出かけた。
「近くにこんな公園があったのに来た事なかったね」
しばらく歩くと、木陰で休む老夫婦が見えた。
女性の耳元で話す男性は、少し足が悪いのか、足を擦(さす)りながら話しかけていた。
時折、女性の背を擦っては語りかける。
「ずっと仲良しだったのかな。でも奥さんわかってないみたい」
「そうかな」
「覚士は、私がああなっても横に居てくれるのかな。ねえ、覚士・・」
沙耶香は、覚士の掌に『さやか』と指で書いた。
「覚士、ここに『さやか』って書いた。沙耶香が忘れても覚士は忘れないでね。沙耶香にも書いて『さとし』って」
沙耶香は、覚士の前に掌を差し出した。
「ここに『さとし』。はい、書いたよ。沙耶香も覚士を忘れない。ここに書いたことを沙耶香が忘れたら僕が教えてあげる。ずっと、いつまでも」

覚士と沙耶香が通り過ぎた後、車椅子を押して公園を散歩する老夫婦(ふたり)を緑の葉を茂らした木々が優しい木漏れ日で包んでいた。

                    −完−
作品名:緑の季節【第三部】 作家名:甜茶