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緑の季節【第三部】

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花もほころぶ弥生のある日、出向の任期を終え、京都からの引越しを済ませた覚士は、
元の会社での勤務に戻った。
机も 迎えてくれた上司や同僚も 社内での役職も 変わらないままそこにあった。
そんな覚士の変わったものはといえば、彼の内面的なことかもしれない。

週末、覚士は花屋へ立ち寄り、花束を買い求め里実の墓参りに訪れた。 
以前であれば、真っ先に訪れた場所だった。
墓は、変わりなくきれいにされていた。
おそらく里美の親がここをよく訪れているのだろう。
「ただいま、こちらに戻って来たよ」
覚士は、語りかけるように墓前で佇んでいた。
少し春の香りを感じる風が覚士の髪を揺らした。
「もう、あまりここへも来られないかもしれない。君のいう『新しい人生』ってまだわからないけど、ここから出発しようかと思う。君との時間はとても短かったけど、君を想う時間は僕にとってはずっと止まっていたように思うよ。君との止まった時間から僕は動き出すことにする。ありがとうって言葉があっているのかわからないけど、ありがとう。そして、さようなら」
覚士は、その日は振り返ることなく、里美の墓を立ち去った。
帰り道、『さんぽみち』の方へ車を走らせたが、立ち寄ることは思いとどまり、店の前を通り過ぎてマンションへと帰った。

作品名:緑の季節【第三部】 作家名:甜茶