恋冷ましの花
暑い夏も盆が過ぎれば、そこはかとなく風が吹く。
しかし、その風はまだまだ単なる熱気の流れ。だが徐々にわずかな清々(すがすが)しさも混じってくる。
そんな秋の忍び寄りを感じさせてくれる八月の終わり、優也(ゆうや)は町から車を飛ばし、妻の夏帆(なつほ)と出掛けてきた。そしてこの山峡の温泉地に着いた。
目的はこれといって特にはない。強いて言えば、結婚して十年、この辺りで二人だけで一休みでもしてみようかということだ。
緑深い山あいにある鄙びた宿。下には清流が流れている。そんな温泉宿に、二人は午後四時頃に着いた。
山と川が一望できる部屋に通され、二人は早速温泉につかった。
誰もいない露天風呂。そこへ谷川から駆け上がって来る微風。清流の瀬からの水の響き。そんな中で、湯にゆったりとつかり、二人とも疲れを取った。