緑の季節【第二部】
その夜、沙耶香にメールを送った。
《こんばんわ。今日でここでの仕事が終了。あさって引越しをします。酔ってます。おやすみ》送信
沙耶香からの返信に気づいたのは、翌朝になってからだった。
その日は、身の回りのごくわずかなものを残し、ほとんどを梱包することで終わった。
次の日の昼過ぎ、引越し業者に荷物を引き渡して、マンションの手続きをするために総務の女性が訪れるのを待った。
会社名義の借用ということで さほど面倒もなく鍵を返すことができ、ややあっけなさを感じた。
「今から、こちらを出発するよ」
覚士は、母親に電話を掛けると、総務の女性に見送られ、この町を後にした。
バックミラーに写る町並みよりも、前向きな自分の気持ちにここでの時間が有意義だったことを感じる覚士だった。
弥生の風が吹く。
木々の緑。
所々に桃色の花が咲く頃、覚士はこの町に戻ってきた。