熱病<Man>
「何してるのよ。早くパジャマ着なよ。余計に熱上がるわよ」
よろっ…とこっちに向かって倒れてきたのかと思ったら、急に、彼が私を抱き締めた。
「な、何…」
熱い。
彼の持っている高熱に包まれたようだった。
両腕でどうにか彼の体を押しながら私は抵抗した。
「やめてよ、早くパジャマ着て寝な…」
その続きは言えなかった。
唇を塞がれた。
私を抱く彼の腕の力は、本当に40度の熱があるのかと思うぐらい強かった。
苦しい…。
そう思った時、彼の唇が離れた。熱のせいで苦しいのか、少し息が荒い。
そのまま後ろのベッドに座り込む。
「…ごめん」
彼が俯いて呟く。
立ったままの私は、彼を見下ろす形になった。
彼は顔を上げず、パジャマを着た。
その姿が、どんどん滲む。
「…嬉しかったんだ…あんな簡単なメールだったのに、俺が思ってた事、してくれて…あんなにいっぱい、俺の為に買い物して、うちに来てくれた事が嬉しかった……だから、思わず…」
「……」
「…病気のせいにするのも変だけど…熱のせいで…冷静になれなかった…ホントは我慢しようと思った…でも止められなかった」
「……」
何も言わない私がおかしいと思ったのか、彼が顔を上げた。
「……!」
彼は泣いている私を見て驚いた。
「…ごめん、嫌だったよな……お前の気持ちとか、全然無視してた…ごめん…」
「……がう」
「え?」
「……違うの…」
私を包んだ体温、押し当てられた唇の熱さを思い出していた。
…私も求めていたものだった。
彼の前に膝立ちになる。
ベッドの上に置かれた手を握り、彼の顔を見る。
驚いたように私の顔を見た彼が…わかったように笑顔を見せた。
重なった唇が、さっきよりも熱く感じた。
「…いてぇ…背中…」
身を屈めるように私に近付いた彼が、唇を離した途端にそう呟いた。
私は泣きながら、笑った。