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海竜王 霆雷 発熱1

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 記憶の海に残っている画は、いくつかの小さな黒い粒だった。あれと似たものを、深雪も貰ったことがある。だが、こんなことにはならなかった。あれは、逆の効用があって、深雪には有り難いクスリだったのだ。






 少しして、身なりを整えて美愛が戻ったので、今度は深雪が席を離れる。傍には、衛将軍が付き従っているが、それは気にしない。ふわりと、宮の欄干から飛び上がり、すうっと息を吸い込む。居場所は、先ほど、探しておいた。まあ、ここだろうと予測していたし、あっさりと、そこにいた。
「深雪っっ、何をっっ。」
 慌てて、衛将軍も追い駆けてきたが、すでに、捕縛していた。両手を優雅に上に差し向けると、それは、かなり上空に忽然と現れる。逃げる隙など与えない。そのまま、手を振り下ろすと、同様に、その巨体も落下して、一番大きな湖全域に波紋を起こし沈んだ。驟雨でも通り過ぎたか、というぐらいに激しい水しぶきが、水晶宮に降り注ぐ。
「寝てたか? 」
 びっくりしたらしい相手は、そのまま深く沈んでいく。態勢を立て直す暇もなかったのか、ジタバタと、両手両足を動かしている。もちろん、浮き上がらせるつもりはない。そのまま荷重をかけて、湖の底へ貼り付けた。
「沢さん、待機。」
「おい、深雪。あれか? 」
「そう、あれ。とりあえず、申し開きは聞いてくる。沢さんがいると口を割らないから待っててくれ。」
 湖の底へ、深雪は瞬間移動して、その貼り付けた巨体の横に降りる。相手は、動けないので、上向きになってジタバタと暴れている。
「何を飲ませた? カメ。事と次第によっちゃ、九割殺すぞ。」
「これが、旧知のものに対する態度か? 銀竜よ。」
「なんで、俺が、こういうことをしたのか、わかってるだろ? 速やかに吐け。吐かないなら、その甲羅を叩き割って、蛇も引き剥がすぞ。」
「この乱暴者がっっ。」
 ジタバタと暴れているのは、巨大なカメだ。ただし、その甲羅には蛇が巻き付いている独特の生き物で、神仙界を代表する種族のひとつでもある。しゅるりと、その大きな蛇が、深雪に巻きついたが、そこから瞬間移動で抜け出して、腹を向けている甲羅の上に立つ。玄武と呼ばれる一族は、全て、この姿をしている。人型もなれるが、地中で過ごす時は、この姿で居ることが多い。水晶宮の地下に、この玄武の住処があることを知っているのは、一部のものだけだ。それも、過去、深雪を拉致して閉じ込めるために、わざわざ作り出した場所で、たまに顔を出す時は、そこから現れる。
「別に、あんたが来るのは構わない。けど、うちの次期様に一服盛るのは、どういうことかと聞いているんだ。ちびが死んだら、あんたら一族を、うちの美愛が滅ぼすことになる。」
「毒? 」
「毒じゃなきゃなんだ? うちの次期様は、一晩苦しんだぞ? 」
「苦しんだ? なぜじゃ? 」
「知るかっっ、おまえが食わせたんだろーがっっ、かめじじいっっ。」
 しゃあーと蛇が攻撃してくるが、それにも拳骨を振り下ろして、深雪が怒鳴る。その大きな蛇の頭を捕まえて、それを甲羅の上に叩きつける。
「なんとまあ、乱暴で無礼な銀竜じゃ。わしが、わざわざ顔を出してやったのに、その態度とはな。呆れてモノもいえん。」
「普通に来るなら、普通に対応する。吐く気はないんだな? 」
 ジタバタしていた手足は止まり、呆れたような声が聞こえる。毒を一服盛ったにしては不遜すぎる態度だ。
「吐くも何も、あれは、おまえにも下賜してやったぞ。人間は弱いからな、わしが、わざわざ持ってきて飲ませてやったのに、毒などと・・・おまえには、礼儀がない。いや、元から礼儀はないな。さらに、礼儀知らずとなったようだ。水晶宮の主人殿になって、少しは礼節も覚えたと思うたは間違いじゃった。」
「やっぱり、あれか。その現物、あるか? 」
 ここにあるわい、と、玄武も懐から蛇に袋を引き出させた。それを奪い取るようにして、一度、深雪は私宮に戻る。叙玉に成分を調べてくれ、と、毒の現物を渡すと、引き返す。その間も、玄武は湖底に縛り付けられたままだ。見た目には、何もないが、深雪の能力で縛り付けている。
「なんで、寝ている時に来るんだよ? 」
「おまえには用がなかっただろ。わしは、小竜を見たかったからじゃ。」
「顔ぐらい見せればいいだろ。俺が、私宮にいたことも知ってたはずだ。」
「そんな不細工な顔を眺めて、なんとする? 笑うには、ちと足りん。」
 玄武の長は、かなりひねくれた性格なので、素直に言葉にはしない。深雪が寝ていたから、そっと小竜の顔だけ拝んだのだ。そして、目を覚めたら、深雪にも挨拶しようと待っていたのに、そういうことは言わない。
「おまえの顔よりはマシだぞ。」
「おまえにも持ってきてやらねばならなかったな? そう拗ねるものではない。用意して届けてやろう。わしは寛大な性格だ。先ほどと今の無礼は見て見ぬフリをしてやる。」
「いらねぇーよ。そのまま干上がるまで転がして置かれたいか? 」
「わしは竜族に同情するぞ。二代続けて、ひ弱な人間などを主人とするなど、黄龍も、少しは考えて選べはよいものを。」
「情報は、ちゃんと把握しろよ? かめじじい。今度の次期様は、俺とは違って眠らない。至極健康体の人間だったんだ。だから、そう心配しなくても大丈夫だ。」
 そこで、玄武はぎょろっと大きな目を、こちらに向けた。知らなかったらしい。だから、深雪の時と同じように、滋養を詰めた飴を持参して、小竜に食べさせたのだ。二代続けて虚弱な人間で、それを世話するのが、元虚弱な深雪だから、苦労するのだろうと心配したらしい。言葉が歪んでいるので、解りづらいが、玄武は、そういう人となりだ。何度も眠り病を患う深雪のことは、気にかけていて、なんだかんだと歪んだ言葉と共に、そういう玄武特有のクスリは運んでくれた。それはわかるのだが、なぜ、ああなったかがわからない。
「ふむ、なら強すぎたんじゃな。」
「ああ? 」
「あれは、おまえの時と同じものじゃ。滋養強壮のクスリのような飴じゃから、精が強すぎて発熱したんじゃろう。なんとも、おかしな話だ。」
「いや、おかしかないだろ? ちゃんと聞いてから飲ませろよ。・・・それ、後遺症とかは?」
「あるわけがない。体外へ排出されれば終わりじゃ。」
 それを聞いて、ほっと深雪も安堵する。何も影響がないなら、後は回復するはずだ。よかった、と、気を抜いて、甲羅の上に座り込む。
「事情は話したぞ。さっさと開放せよ、銀竜。」
「うるさい、かめっっ。・・・・ちょっと休ませろ。」
「銀竜のくせに、鳥頭なのは、相変わらずのようじゃな。もう少し、ゆとりというものを持って生活すればよいのではないか? なぜ、おまえは、そうもせっかちなのだ。水晶宮の主人とは、優美さと気品が必要じゃ。おまえには、それがない。少しは学ぶこともすれば、よいのじゃ。」
「・・・・後見の件は、ごめんな、かめじじい。うちの東じいと西ばあが、さっさと名乗りをあげてさ。他は平等に退いてもらうことにしたんだ。そうでないと、余計にややこしくなりそうだったからな。」
作品名:海竜王 霆雷 発熱1 作家名:篠義